くつしたのぼうけん
霜月あかり
くつしたのぼうけん
きょうは、とっても大事な日。
小学校ではじめてのマラソン大会があるのです。
タンスの中で、みどりいろのくつしたが目をさましました。
「よし! きょうは出番だ!」
でもとなりを見て、あっと声をあげます。
「ぼくの“あいて”がいないっ!」
マラソン大会の日に、ふたりそろわなきゃ。
そうでないと、子どもは不安になってしまう……。
みどりのくつしたは、タンスからぴょんと飛び出しました。
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まずのぞいたのは、せんたくかご。
「ねえ、きのう洗われた“ぼくのあいて”を見なかった?」
シャツがひらひら答えます。
「残念、ここにはいないよ。きのうの風でベランダに飛ばされちゃったかもね」
---
ベランダに出てみると、ピンチにぶらさがるタオルがゆらゆら。
「ごめん、みどりのくつした見なかった?」
タオルは風にゆれて、ふわっと返事。
「くつ下なら下に落ちてったよ。風にのって、どこかへ転がっていったみたい」
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くつしたは家の中をかけまわりました。
ソファの下をのぞくと、ほこり玉がころころ。
「ここにはいないね。もっとさがしてごらん」
くつしたはあせりました。
「どうしよう、時間がなくなっちゃう!」
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そのとき――。
玄関のほうから、かすかな声がしました。
「ここだよ、ここ!」
かけよってみると、靴の中からもう片方のみどりのくつしたが顔をのぞかせています。
「きみ! どこに行ってたんだ!」
「ごめんね、きのうの帰り道で、ここに入りこんじゃったんだ」
ふたりはぴったり並んで、ほっと息をつきました。
---
ちょうどそのとき、子どもが玄関に来ました。
「やった! みどりのくつした、そろってる!」
子どもはにっこりして、くつしたを足にはめます。
このくつしたは“マラソン大会のときに必ずはく、げんかつぎ”だったのです。
「ふたりがそろってると、ぜったいに大丈夫」
子どもはそうつぶやいて、ぐっと背すじをのばしました。
みどりのくつしたも、胸を張ります。
「ぼくらはいつもいっしょ。きょうもがんばろう!」
こうして、ふたりのくつしたの小さなぼうけんは終わり、
子どもの安心とともに、大切な一日が始まりました。
くつしたのぼうけん 霜月あかり @shimozuki_akari1121
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