桃太郎、おにをたいじする

「鰯、ビームだ!」

「はぁッ!」


「柊、葉っぱ手裏剣!」

「……」


「ぐあぁぁぁっ!」


鰯のビーム――もとい、青い光の帯が鬼を焼き、柊の放った鋭い葉が風の渦に乗って切り裂く。

精霊は自らの意思で攻撃できず、術者の命令によってのみ力を振るえるらしい。


――桃矢が指示し、精霊が放つ。

そのやり取りはまるでモンスター同士を戦わせるゲームのようだった。


とにかくネーミングセンスが壊滅的。

その事実を一番よく分かっているのは、他ならぬ桃矢自身だった。


(くう……恥ずかしすぎる! 出せるワザが決まってんなら、最初から技名つけとけよ!)


しかし、名前と威力は別物。

センス皆無の技名でも、効果はバツグンだ!

鬼神の巨体が怯み、地鳴りのような唸り声を上げる。



「人間! 貴様、よくもやってくれたなぁ!」



咆哮と共に振り下ろされる巨大な棍棒。



「うわぁぁ! は何もしてないけどっ!」



反射的に刀を構えた桃矢は、必死に受け止める。

しかし――


――パキィンッ!


乾いた破砕音と共に、刀身は無残に折れ飛んだ。



「嘘だろ……俺、やっぱ……」



脳裏によみがえるのは、あの事故の光景。



(あの時のように……終わるのか?)



握った柄から伝わる震えを、桃矢はぐっと握りしめた。



「……また、死んでたまるかッ!」



叫びと共に、桃矢の手が眩い光に包まれた。



「な、なんだと!?」



雷鳴のような閃光に鬼神が怯み、振り下ろした棍棒は逸れて岩盤を粉砕する。

轟音と砂煙の中、桃矢の手に残ったのは――



「……嘘だろ、豆?」



掌に握られていたのは、一握りの豆。

小さな升に盛られたそれは、どう見てもただの豆だった。



「まさか……お前がそれを手にするとはな」



鰯の精霊が驚愕に目を見開く。



「それは。鬼を滅する神具だ。放て、桃太郎!」


「いや、どう見ても普通の豆だろコレ!?」



桃矢は半目で升を見つめ、呆然と立ち尽くす。

だが、折れた刀もなく、選べる手段はもうこれしかない。



「……もうどうとでもなれッ!!!」



桃矢は渾身の力を込めて、豆を鬼神めがけて投げつけた。



「ぐおおおおおおおおおおッ!!!」


「マジか……!?」



――豆は、本当にただの豆じゃなかった。

そして、そのことに一番驚いているのは、他ならぬ桃矢自身だ。


鬼神の地響きのような絶叫が、島全体を揺らす。

焼けるような閃光をまとった豆が肌に突き刺さり、まるで毒を浴びたかのように巨体がのたうち回る。


――バキリィッ!


乾いた破砕音と共に、鬼神の角が砕け散り、地面に転がり落ちた。

その瞬間、全身を覆っていた邪気がすうっと抜けていく。


「……私は……」


角を失った鬼神は憑き物が落ちたように力なく膝をついた。

その顔にはもはや悪意も敵意もなく、ただ疲れ果てたの表情だけが残っていた。





桃太郎とうやたちは無事に鬼退治を果たした。


元・鬼神たちは角を失い、人の姿へと戻る。

彼らはもう二度と悪さをせぬと誓い、宝物を担いで村へと帰還した。

その後は人として村の復興に尽くし、少しずつ信頼を取り戻していくことになる。



「さーて、俺の役目はこれで終わり! いやー、マジ疲れたぜ」



達成感に浸る桃矢の背に、冷静な声が降ってきた。



「何を言っている」


「……は?」


「鬼神はこの国のあちこちに蔓延っている。たかだか一角を成敗した程度で終わるわけがなかろう」



鰯の淡々とした言葉に、柊も無言でうなずく。



「え……」



しばしの沈黙……、そして理解が追いついた瞬間――



「えええええええええええええ!?」



桃矢の悲鳴が虚しくこだまするのだった。





こうして、桃太郎とお供の精霊たちの鬼退治の旅は、新たな幕を開けた。


――いつか、桃矢が故郷へ帰れる日は訪れるのだろうか。


がんばれ桃太郎、負けるな桃太郎。


物語は、まだ続いていく――。


―完―




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

あとがき


最後までお読みいただきありがとうございます!


これにて完結……のはずですが、★や♡、コメントをたくさんいただけたら――

桃矢同様チョロい作者なので、うっかり続きを書いてしまうかもしれません(笑)

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異世界で桃太郎と呼ばれたけど、思ってた話とだいぶズレてるんですが。 @haricots

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