☆オマケ☆












 二階堂さんも是非お友だちといらしてくださいね、と。仕事先からデジタルチケットを貰ったのはいいが、どう考えても人気の新設ウォーターパークには気軽に遊びに行けそうもない。


 ご丁寧に二人分、プール施設内では飲食もフリーパスというVIP待遇の優待券。もちろん有難うございます! と喜び勇んで使用したいところではあるが、恋人の咲太郎とは行けそうにないし、よしんば友達と言って出かけたとしても一般人と同じ場所で楽しめるとは思えない。大河ドラマに出演してからというものの余計に知名度が上がってしまった今となっては特に。


 折角のVIP待遇のチケット、このまま使えなくなるのも勿体ないと、最近彼女ができたと聞いた高校時代の友人に譲ってあげた。彼には高校在学中世話になったからこれぐらいしても足りないくらいだろう。


 ――ただ、ああ……本当は自分が使いたかった!!




「え? プール?」

『そう、VIP待遇のチケットもらったからさ、咲と行きたかったのに』


 オンライン通話でなかなか思うように会えない恋人の咲太郎に経緯を話す。


『施設のアンバサダーになったからさ、オープン前に一回招待はしてもらったことはあるんだけど……そん時は周り仕事関係者ばっかりだろ? 本気で楽しめるわけじゃないし。……めちゃくちゃ大きいウォータースライダーとかさ、スパとかも併設されてて……凄く充実した施設なんだよ』

「へー」


 咲太郎は法律の専門書に目を通しながら適当に相槌を打つ。


『今年の夏は結局なんにも夏らしいことしてないや。……ねぇ咲、会員制のプールとかさリゾートならなんとか行けそうだし、一緒に行こうよ』


 兄の知り合いのホテルやリゾートがいくつかあるから、そこなら人目を気にせず行けるだろう。すっかりサマーバケーション気分の光はねーねー行こうよーと咲太郎に提案した。

 けれど、返ってきた返事は想像以上にそっけないものだった。


「え。やだよ。俺、お前とプールは行きたくないもん」


 まさかの答えに『なんでぇ!?』と青くなる。咲太郎は眉間にシワを寄せて心底嫌そうに言った。


「……だって、俺、全然運動してないし。とてもじゃないけど水着になんてなれたもんじゃない。何が悲しくてこんな生っちょろい体晒しに行かないといけないんだよ。んで、となりにいるのはお前だろ? ……なんの罰ゲームだよって話」


 身も蓋もない言い草に、光が喚く。


『俺が咲と一緒に行きたいって言う気持ちはどうでもいいの!? 俺はさぁ! 咲の体が鍛えられていようがなかろうが、咲と一緒に楽しい時間を共有したいだけなの!』


 一緒に夏の思い出作ろうよぉ~! と泣き落とす光に咲太郎は一瞬言葉を詰まらせたが、しばし考えてから口を開いた。


「……とかなんとか言って、お前、すぐにイチャつき出すじゃん。下心見え見え。そんな猿とはお出かけできません」


 ピシャリと言われた光は図星を指されてぐうと唸る。


 ……確かに、下心がないとは言わないが、一緒の時間をなるべく過ごしたいのは本心だ。その気持まで否定されてしまっては光だって面白くない。

 嘘泣きだった目に本気で涙をためて、光は苦し紛れに「……咲だってなんだかんだ言ってちゃんと楽しんでるじゃん。俺の前ではもう隅々までさらけ出してるくせにさぁ」とブチブチと文句をこぼした。


 言ってからハッとする。


『あっ咲、今のはナシ――!!』


 慌てて否定したが、時すでに遅し。


 画面の向こうの咲太郎は、画面越しにも解るくらいに顔を真っ赤に染めてモニターを睨んでいた。


「……バカ! アホ! 変態!!」


 ぶつっと通信が切られて画面がブラックアウトする。


「ああ~! ……失敗したぁ……!!」


 ただでさえ時間が合わないのに、これは怒りが解けるまでけっこうな時間がかかりそうだ。


 光は自分の失言を呪いつつ、けれど怒った顔も可愛かったなぁ……なんて。おめでたい思考回路は夏の暑さのせいだろうかと自問自答する羽目になったのだった。


2025.9.7 了

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