置き去りにされた小説は

尾崎柊夜🌙

置き去りにされた小説は

君の帰りを待っていた


不器用に描かれた

不完全なキャラクターたちは

まだはじまってすらもいない

君の物語をいまでも待っていた


が故郷を離れて街へ出て

それから筆は止まっている

永遠に、ページは閉じたまま


彼女が抱いた恋心もかなしさも

いつまでもそこにとどまっている


なにもかも、呼びかけたままで

もう帰ることはない


ここは物語の墓標のようで

まるで何かを綴るたびに

流れ星が流れるみたいだ


きみはきっと、いつかの夢に

そのことを思い出す


そうして


宵越しに残されたぬるい水が

朝日に照らされ、きらめいて


たぶんそれを


しずかに飲み干すのだろう

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置き去りにされた小説は 尾崎柊夜🌙 @Oyogetaiyaki-kun

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