やさしい理想

yan3

第1話 こどものように

夜は怖い。

たばこの煙、アルコールのにおい、のどの痛み。

毎日とは言わないが意識の外からやってくる。

しかし、毎日顔を合わせる同級生は幸せそうに笑っている。


だから笑った。


たのしい気がしたから。

うれしい気がしたから。



(本当に楽しいのか?)


いつからかそんな声が聞こえるようになった。

たのしいはずだ。


ほどなくして妹が生まれた。

父はたばこをやめた。

アルコールの量が減った。

母は理想の押し付けをやめた。

今までのすべてが嘘のように変わっていった。

これでよかったのだ。

両親は変われる優秀な親なのだ。

妹も苦しまずにすんだ。

変われなかったのは俺だけだ。



(なぜ?)



そんな言葉は兄の俺にはいえない、

否、言ってはいけないのだ。


(世界はこれを平和と呼ぶのだろうか。)


(初めから平和なら、)


よかったな。

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やさしい理想 yan3 @yanndereboy

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