木漏れ日

たちばな かん

水平線が見えそうなほどのあぜ道を歩く


蚊柱に当たり顔にしわを寄せる


時折鳥の影に覆われながら夏を嗅ぐ


水路に飛び交うとんぼを見つめる


肺まで熱くなるじんわりとした空気


張り付いた服が真っ直ぐな風に引き剥がされる


すこしくるりと回ってみたりして


後ろを眺め踵が先頭を行く


心地良さとちょっとした恥


口をきゅっと結び前を向く


月のように反射する地面からの光と


太陽がくれる大きな絹布に包まれ


汗を流しながら木陰に潜る


ひんやりとした中に煌めく木漏れ日


揺れ動く星のような輝きを放つ


澄んだ空間と湿った土の匂い


だんだん重たくなる瞼の力を抜く


葉が擦れ内から鼓動が響く


砂利としなる草に寝ころぶ


木の根を枕にして思考を手放す


ただひたすらに続く空を緑と雲の隙間から除く


だんだん赤く染まる


燃え盛る火種のような日の影


手の上で転がして夜を待つ


大きな体から抜け出す


鈴虫や蛙正体のわからない鳥の声


今にも落ちてきそうな星々を見上げる


今日の世界も美しい


明日もまたこの景色が見られるのだろうか


土埃と草を払って家に帰った








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木漏れ日 たちばな かん @citrus7

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