エロ漫画の世界へ転生したら最推しヒロインの兄だったんだが。仕方ないので主人公から妹の貞操全力で守っていたら他のヒロイン達までやたらと俺に甘えてくる。
野谷 海
プロローグ 推しの兄って、それはないでしょう!?
「おめでとう兄さん……」
「
「ありがとう……2人とも」
可愛い妹と母に祝福されながら、俺は少し照れくささを感じながらもホールケーキに立てられたローソクの火を吹き消した。
その刹那――突如として頭の中に押し寄せる、情報過多の記憶。
脳の内側から直接トンカチを打ちつけられたかのような、激しい痛みと眩暈に襲われた俺は、その場で気を失った。
眠っている間に思い出したのは、俺の人生は少なくとも今世で2度目だという嘘みたいな真実。
前世の俺はどこにでもいる普通の高校生だった。勉強も運動も人並み。少ないけれど気の許せる友達も何人かいた。
でも何故か……高校以降の記憶がない。
きっと俺は、早くして死んでしまったのだろう。
そして何の因果かこの世界に転生した。
そう……前世で幾度となくお世話になっていたエロ漫画――『恋コイ』の世界へと……
この世界では男女共に貞操観念が著しく欠如しているという、エロ漫画ならではの世界観設定が施されている。
その証拠に、政府が公表している全国民の高校卒業時点での童貞卒業率、処女喪失率は共に脅威の98%を越えているらしい。
そんな男の夢のような世界に転生することが叶ったのだから、普通の男ならば万歳三唱して喜びを顕にするのだろうが、いかんせん俺はそういう訳にもいかなかった。
なぜなら俺が転生したのは……最推しだったメインヒロイン――
なんて日だ! せっかく夢の世界に来られたのに、俺は推しと結婚どころか、恋愛にすら発展することが出来ない。
前世の記憶を取り戻すまでは、最愛の妹として愛していただけだったのに、これでは1人の女性として意識せざるを得ないじゃないか。どうしてこんな記憶を蘇らせたんだ……神様のバカ、アホ、マヌケ!
自室のベッドで目を覚ました俺は、まだ動ける状態ではなかったから、不親切な神を呪いながら記憶の整理を続けていた。
すると扉が2度、ノックされる。
「兄さん、もう起きた? お腹減ってない?」
妹の、凛の声だった。
「あぁ……悪かったな……入っていいぞ」
俺の返答を受けて扉が開くと、いつもならば感じていなかった種類の緊張が身体の隅々を駆け巡る。
腰まで伸びたブロンドの髪を編み込んだハーフアップ。南国の海のように透き通った蒼い瞳は、どんな宝石よりも煌びやかな光を放つ。
思わずドキリとさせられてしまう露出が多めの部屋着に包まれた線の細いカラダは、出るところはしっかり大人の女性として一人前に成長しきっている。
俺の妹は正に、絶世の美少女だった。
「お粥、頑張って作ったんだけど食べられそう?」
よく通る耳心地の良いその声は、前世では聴くことが叶わなかった知られざる情報。
「お前が作ってくれたんなら、たとえゴキブリが入っていようと全部食べるさ」
「そんなの入れてないわよバカ兄さん……!」
怒った顔も、最っ高だ。
俺はゆっくり体を起こすと、凛から小鍋が載せられたトレーを受け取る。
ひとつ年下の凛は高校2年生で、俺たち兄妹は同じ高校へ通っている。
そして、俺が今最も気になっていることが、この漫画世界の主人公である――
確か原作では凛の17歳の誕生日、4月4日に2人は初めてカラダを重ねることになるはずだ。
あれ、ちょっと待て……俺の誕生日が4月1日ってことは……おい、あと3日しかないじゃないか!!
お粥を食べながら気が気でなくなった俺は、凛に直接尋ねてみた。
「凛……お前……まだ処女だよな?」
「はっ……!? ちょっと兄さん、いきなり何を聞いているの……!?」
凛は顔を真っ赤に染めると、慌てた様子で目を丸くさせていた。
エロ漫画のご都合設定ありきと言えど、物語に深く関わるヒロイン達にはそれなりの貞操観念が備わっていることは知っている。そして押しにはめっぽう弱いことも。少しくらいの恥じらいがないと、見ている読者は興奮できないからな。
「とても大事なことなんだ……頼む、教えてくれ」
「しょ、処女だけど……悪い……?」
眉をひそめながら睨むようにそう答えた妹の表情に、思わず欲情しそうになるのを必死に抑えた。布団で下半身が隠れていて助かった。
俺はひとまずホッとする。
「安心したよ……」
「そ、そういう兄さんこそどうなの……?」
「俺も……まだだけど……」
ここぞとばかりに妹は、勝ち誇ったようなしたり顔を浮かべた。
「もしかして、高校3年生にもなってまだ未経験なのは、兄さんくらいかもしれないわね?」
「俺は焦ってないから別にいいんだよ。それよりお前だ。初めての相手は、よく考えて選ぶんだぞ……?」
「本当にいつまで経っても過保護なんだから……」
ため息混じりで、呆れたように返す凛。
「特にあの男には気を付けるんだな!」
「五光君のことを言っているの? それなら心配しなくても、私たちは清いお付き合いをしているから……」
そう、何を隠そう――五光と凛は現在、交際している。
2人は誰にもバレていないと思っているが、それはお互いに利害が一致した上での偽装カップルに過ぎないことを、原作愛読者の俺だからこそ知っている。
凛は兄である俺を妹離れさせる為、そして五光は自分に深い愛情を向ける妹――
その偽りの関係だった2人が……あと3日で大人の階段を登ってしまう。
しかも何が腹立たしいって、主人公の五光はその後も複数のヒロインと関係を持ってしまうのだ。
そんなことを兄としても、凛を愛するひとりの男としても許せる筈がない。
――だから俺は、強く決意する。
必ず妹の貞操を守ってやる……と。
ただの自己満足に過ぎないことは分かっている。
それが妹の幸せに繋がるのかどうか分からない。なぜなら、俺はあの漫画の結末を知らなかったからだ。
凛が幸せになれるのかどうか分からないのなら、せめて俺以上に凛を愛してくれる男が現れるまでは、それまで俺の妹は、誰にもくれてやるつもりはない。
これは――俺が最愛の妹を、ヤリチン主人公の魔の手から守り抜いていく内に、なぜか他のヒロイン達からも好意を寄せられてしまうという、摩訶不思議な物語。
次の更新予定
エロ漫画の世界へ転生したら最推しヒロインの兄だったんだが。仕方ないので主人公から妹の貞操全力で守っていたら他のヒロイン達までやたらと俺に甘えてくる。 野谷 海 @nozakikai
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