最終話
それから数日が過ぎた。
翔太はあの夜の出来事を思い返しながらも、日常に戻ろうとしていた。
日記はあの時、模様と一緒に崩れ落ちて灰になってしまった。
だが、不思議なことに、あの女性の影を見てからというもの、彼の夢に毎晩現れるようになった。
夢の中で、彼女は何も言わず、じっと翔太を見つめている。
ある晩、翔太は夢の中で問いかけた。
「君はもう自由になったんじゃなかったのか?」
彼女はかすかに首を横に振る。
「“あれ”は私だけじゃなかったの。まだ…誰かを探してる。」
翔太はハッとして目を覚ました。
汗だくになっていた。だが、問題はそこではなかった。
目を開けたはずなのに――暗闇のままだった。
いや、違う。
目の前に、誰かが立っていた。
動けない。声も出ない。
息だけが荒くなる。だが、足音が――玄関から、2階へと上がってきている。
自分の部屋の前で止まり、ドアがゆっくりと、きしむ音を立てて開く。
翔太の目の前に、あの“影”が再び現れた。
しかし、それは前の女性ではなかった。
顔がない。
ただの黒い闇の塊。にもかかわらず、そこからいくつもの手が生えていた。
手は翔太の顔に、胸に、腕に触れる。
冷たくて、ざらざらしていて、現実とは思えないほど“生々しい”。
「返せ…」
闇の中から声がした。
「お前が壊したのは封印じゃない――鍵だ。」
翔太の体が急に軽くなる。
いや、浮いているのだ。
闇の中に引き込まれるように、彼の身体は空間に溶けていく。
最後に聞こえたのは、自分の家のチャイムの音だった。
――ピンポーン。
翌朝、町の人々が翔太の家を訪れたとき、彼の姿はどこにもなかった。
家の中には誰もいない。けれど、玄関の足元には濡れた足跡がいくつも残っていたという。
そして今も、その家では、深夜0時になると――
チャイムが鳴る。
【完】
深夜の訪問者 ジュラシックゴジラ @JWAGB
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