第4話:オフの約束、秘密の逢瀬



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**第一章:禁断の誘い、オフの提案**


祇園の街に、秋の気配が漂い始めた頃。佐知子は、いつものように、置屋「待機場所」で、妹分たちに指示を出していた。昨夜も、ある政財界の有力者の不正の証拠を掴むため、深夜まで動いていた佐知子の顔には、微かな疲労の色が浮かんでいる。


「…ほんま、休む間もないねえ。」


佐知子が、煙草に火をつけながら、独り言ちる。その時、ふと、彼女の脳裏に、佑樹のまっすぐな瞳が浮かんだ。


(…あの顔見たら、こっちまで、なんか、元気もらえるような…)


佐知子の顔に、ふっと、いつもの艶やかな微笑みが戻る。彼女は、携帯電話を取り出し、佑樹にメッセージを送った。


「…明日、オフやねん。…お昼、空いてへん?」


数分後、佑樹からの返信が届く。


「え?本当ですか? 佐知子さん、オフなんですか? ぜひ!」


その返信を見た佐知子の顔に、さらに満面の笑みが広がる。


「…ええ。…てれるがな。(笑)」


佐知子は、一人で、くすくす、と笑った。芸妓としての自分ではなく、一人の女性としての自分に、佑樹が応じてくれたことが、何よりも嬉しかった。


**第二章:オフの約束、秘密の逢瀬**


翌日、佐知子は、普段とは違う、シックな黒のフォーマルスーツに身を包み、佑樹と待ち合わせの場所である、祇園の静かなカフェに現れた。芸妓の華やかさはないが、それでも彼女の周りには、不思議なオーラが漂っている。


「…佐知子さん!」


佑樹は、佐知子の姿を見るなり、駆け寄ってきた。しかし、その視線は、佐知子の装いに釘付けになる。


「…え、え? だ、誰…? 佐知子さん…?」


佑樹の、あまりの驚きに、佐知子は、思わず吹き出してしまった。


「…やだわ…、わかるやろ?(笑)」


佐知子は、苦笑しながら、佑樹の驚きを和らげようとする。


「…まあ、今日は、芸妓の佐知子やない。…ただの、佐知子やからな。…この、普段の格好で、あんたに、会いたかったんや。」


「…佐、佐知子さん…。すごく、素敵です…! その…、素顔も、初、やな?(笑)」


佑樹の、佐知子への尊敬の念が、その言葉に表れていた。佐知子は、佑樹の素直さに、さらに照れたように微笑んだ。


「…ええ。…まあ、普段は、仕事やから、そうそう、見せるもんやないんやけどな。」


「…佐知子さん、本当に素敵です…!」


佑樹は、今度こそ、佐知子の普段の姿に、心からの感動を覚えた。


「…まあ、ありがとう。…さて、今日は、どこへ行こうか? …あんたの、行きたいとこ、ある?」


佐知子の問いに、佑樹は少し考え込む。


「えっと…、佐知子さんの、普段の生活を、少しだけ、見せてもらっても…いいですか?」


佑樹の言葉に、佐知子は、意外そうな顔をした後、ふっと、微笑んだ。


「…ええ。…それも、ええかもな。…ただし、私の、秘密の場所も、案内するけど…ええか?」


佐知子の「秘密の場所」という言葉に、佑樹の胸が躍る。それは、彼女の「芸者デカ」としての顔に、さらに近づける機会かもしれない。


**第三章:祇園の日常、そして隠された顔**


佐知子が佑樹を案内したのは、祇園の裏通りにある、古びた喫茶店だった。そこは、地元の人々や、祇園の芸妓たちが、お座敷の合間や、オフの時に立ち寄る、隠れ家のような場所だった。


「…ようこそ、私の、もう一つの、『別世界』へ。」


佐知子は、そう言って、店内を見渡した。そこは、華やかな祇園とは対照的に、落ち着いた、しかし、どこか温かい空気に満ちている。


「…佐知子さん、ここ、よく来るんですか?」


「…まあ、たまにな。…ここで、色々、情報交換したり、気分転換したりな。」


佐知子は、そう言うと、カウンターに座り、コーヒーを注文した。佑樹も、佐知子の隣に座り、彼女の日常を垣間見る。


「…昨夜の、教授のこと、どうなったんですか?」


佑樹が尋ねると、佐知子は、コーヒーを一口飲み、静かに答えた。


「…教授は、息子のこと、心配しとった。…でも、息子は、父さんのやり方とは違う、自分で道を切り開きたい、言うてた。…親子やから、色々、あるんやろな。」


佐知子の言葉には、人情と、そして、彼女自身の過去を重ね合わせているような、深みがあった。


「…佐知子さんの、お話、聞かせてもらって、なんか、安心しました。」


佑樹がそう言うと、佐知子は、佑樹の顔を、優しく見つめた。


「…ええ。…で、佑樹さんは?… 歴史学、面白い?」


「はい! 昔の出来事や、人の生き様を知るのは、すごく刺激的です。…佐知子さんのことも、もっと、勉強したいなって、思ってます。」


佑樹の素直な言葉に、佐知子の顔に、さらに深い微笑みが戻る。


「…ふふ、てれるがな。」


佐知子は、そう言うと、佑樹の顔を、いたずらっぽく覗き込んだ。


「…でも、その『勉強』、私の、秘密の場所にも、案内してあげる。…覚悟、できてるんやろ?」


佐知子の言葉は、それは単なる「オフ」の約束に留まらない、更なる深みへの誘いだった。彼女が、佑樹に、その「秘密の場所」で、一体何を見せようとしているのか。佑樹は、期待と不安を胸に、佐知子の次なる言葉を待った。


(第四話 了)

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「芸者デカ ~祇園の夜に咲く秘密~」 志乃原七海 @09093495732p

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