潮の雨
二ノ前はじめ@ninomaehajime
潮の雨
その雨は、異常なほど塩化ナトリウムを含んでいた。要するに海水と同じ成分で、海中でしか生息しないプランクトンも発見された。複数の都道府県に
テレビの中の専門家は、ある種のファフロツキーズ現象ではないかと指摘している。空から
何にせよ、幾日にも
大人と子供が手を
お腹の
近くの産婦人科で診察を受けた。胎児は順調に成長しており、半年後には出産を迎えるだろう。私は祈った。一刻も早く、この雨が止んでほしい。
手早く買い物を済ませて帰宅する予定だった。この天候と午前中であるためか、人通りは途絶えている。濁った空の下、傘を差して長靴の底で水飛沫を弾く。濡れた歩道の先に、流線形の影を見た。手足がなく、何度も跳ねている。フードの奥で目を
魚だった。目が
驚く間もなく、空から次々と
しばらく
恐る恐る傘を傾けて、その
あれは人だ。少なくとも、私にはそう思えた。
白い尾に見えていたのは、長く伸びた毛髪だった。剥き出しになった足の裏をこちらに向けて、全裸の子供に思えた。異様な光景だった。夥しい魚の中心で両膝をつき、その身を
不意に目が合った。瞳孔が縦に裂けていた。
身が
口の周りが血で汚れた顔面を上げる。左目ごと顔の一部が欠けており、片方の瞳だけがこちらを映していた。その容貌はとても
正気の
鋭い爪に引き裂かれる寸前で、白い子供が残った眼球を巡らせた。レインコート越しに膨らんだ腹部に目を移し、次いですぐ傍らの地面を見る。引っ繰り返った傘のそばに落ちていたのは、安産祈願のお守りだった。
長い爪を伸ばし、その紐を
その欠けた顔は、なぜだか泣き出しそうに笑っていた。
呆然自失としていた。気づけば白い子供の姿はなく、雨に打たれた腹の上には安産祈願のお守りが置かれていた。
潮の雨 二ノ前はじめ@ninomaehajime @ninomaehajime
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