かぜのいたずら

霜月あかり

かぜのいたずら

夏休みの午後。

ゆうたは公園で元気いっぱいに遊んでいました。すべり台をすべったり、鬼ごっこをしたり、夢中になって走りまわります。


でも、少し風がひんやりしてきたとき――。

「へっくしゅん!」

大きなくしゃみが出ました。


「あれ……なんだか、体がだるいな」


その晩、布団に入ると、ゆうたは不思議な夢を見ました。



---


夢の中で、ゆうたの体の中はひとつの大きな国になっていました。

血の川が流れ、赤い服を着た「赤血球(せっけっきゅう)」たちが、せっせと酸素を運んでいます。


ところが、その国に黒いもやもやが忍びこんできました。

「ヒュー、ヒュー……」

かぜのばい菌たちです。


「こらーっ! 入ってくるな!」

白いよろいをまとった「白血球(はっけっきゅう)」の兵士たちが、すぐに立ちふさがりました。

「剣をかまえろ! ゆうたをまもるんだ!」


ばい菌たちはゲラゲラ笑いながら、とびかかってきます。

「わたしたちの冷たい息で、のどをいたくしてやるぞー!」


戦いはすぐに始まりました。

白血球たちがばい菌を追いかけ、つかまえてはやっつけます。

でも、ばい菌の数は多く、ゆうたの体の中にどんどん広がっていきました。


そのとき、ちいさな丸い仲間たちが集まってきました。

「まかせて! わたしたちは血小板(けっしょうばん)。こわれたところをふさいで、みんなをまもるよ!」

彼らは道を修理する職人のように、せっせと体のあちこちをなおしていきます。


「よーし、みんなで力を合わせるんだ!」

白血球も赤血球も血小板も、声をそろえて立ち向かいました。


ゆうたは夢の中で、その光景をドキドキしながら見つめていました。

(みんな、ぼくの体をまもってくれてるんだ……)



---


目をさますと、朝の光がカーテンのすき間からのぞいていました。

ゆうたの体は、昨日よりも少し軽くなっています。


「ふぅ……まだすこしだるいけど、なんだか元気が出てきた」


お母さんがにっこり笑って言いました。

「体の中でね、ゆうたの仲間たちが一生けんめいがんばってくれているのよ」


ゆうたは布団の中で小さくうなずきました。

胸の奥で、夢の中の白血球や赤血球たちが、まだ元気いっぱいに走り回っている気がしたのです。


「ありがとう。みんなのおかげで、きっとすぐ元気になれるよ」


――かぜのいたずらなんて、もうこわくありません。

だってゆうたの体には、たのもしい仲間たちがいるのですから。

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かぜのいたずら 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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