追い剥ぎ、人攫い、そして辻斬り。
八百八町の暗がりで育ち、人から人へ語り継ぐ内にその力を増した怪談。
だがいつの日か、から傘が消え、ちょうちんが無くなり、普請が改まり、かつて隆盛を誇った妖魔達はその数を減らした。
深い闇が払われ、業界に訪れたのは近代化という新陳代謝。
靴下の片方を消したり、宅配物を消したり、マンガの7巻だけを二冊に増やしたり……。
脅威度、ピリ辛の現代妖怪。
と、思われてきたが――、
年間失踪者9万人。光が強いと濃くなるのは影だった。
『おぼろのことり』
それは、「助けて」の祈りに現れる仕置き人の名。
現代に生きる怪異の脅威、その闇を呑むのはまた別の闇かもしれません。
黄昏神社。
そこで祈りを捧げれば、怪異の苦しみから救ってくれる。迷い人は賽銭箱に願いを込めてお金を投げ入れる。
巫女装束をまとった少女。
茶トラの猫。
その正体は····?
厄怪事に苦しむならば、言の葉に乗せて呼べ。
人の世に時折現れる怪異事。
解決するは、謎の美少女と仲間の妖怪たち。
あやしくもおかしな怪異譚、ここに在り。
魅力的な登場人物と、時に怖く時に怪しい、そしてちょっぴりあたたかな物語もあったり、とにかく飽きずに読める作品。
章ごとの区切りも丁度よく、人間模様もしっかり描かれている良作だと思います。
和風な雰囲気もありつつ、現代社会の問題も取り込み、個人的にかなり好きな雰囲気です。あやかし物が好きな方は必見です!!
いじめに苦しむ茉莉が悪ふざけで呼び出してしまった怪異「くろうねり」。クラスメイト2人が攫われ、絶望的な状況で出会ったのは——
人語を話す猫と、黄昏神社の巫女装束の少女「言織」。
妖怪や怪異の困りごとを解決する(自称)美少女と、個性豊かな妖怪仲間たち。迷い家を拠点に、彼らが挑むのは計算高い狐妖怪との知恵比べ!
特に秀逸なのは、怖いはずの「くろうねり」が言織たちの前では小物化していく展開。緊迫した雰囲気から一転、コミカルな妖怪退治へと変わる温度差が絶妙です。
いじめ問題という現代的なテーマと、妖怪という伝奇要素の融合も見事。後味の良い解決と、最後に明かされる「もしもの危機」のギャップに思わずゾクリ。
まさに作者の目指す「ゲゲゲの鬼太郎」のような王道妖怪ものです。
鈴木茉莉は、いわゆるイジメられっ子だ。
彼女には、3人の女子生徒がまとわりついている。
イジメっ子が2人と、元友人のイジメっ子が1人。
真綿で首をしめ付けられるように、茉莉の心身は日々蝕まれていく。
ある日、彼女は「くろうねりの儀式」なる怪しげな儀式につきあわされることに。
つまらない悪ふざけ。そう信じていた。
「生贄に、黒い右手を捧げます」
だが、非日常がひたりひたりと近づいてくる―――。
『君達、気に入らない。面白半分で友達を売ろうなんて最低だよ』
そういって、黒いモノはイジメっ子の2人を代わりに連れて行った。
しかし、茉莉の心にしこりが残る。
自業自得だと言われても、納得できない。
そんな折、たどり着いたのは、赤い鳥居の神社だった。
所作に従い、二礼二拍手――そして、一礼。
「お願いします。お化けに連れていかれたクラスメイトを助けてください」
茉莉の声に、声が応えた。
「その願い、聞き届けたり」
彼女たちの前に現れたのは、言織(ことり)を名乗る巫女装束の少女だった――。
これは、『おぼろのことり』を巡る怪奇中編集。
夜の果てにも、まだ闇は息づいている。
(12話まで拝読済)
本作、最初のエピソード“黒うねりの儀式”のヒロイン『鈴木茉莉』は中学2年のいじめられっ子である。
クラスに味方のいない彼女が、呼び出されたのは降霊術“くろうねりの儀式”
そこから始まる妖怪話というのは古典ともいえる王道物語なのだが、
『おぼろのことり~怪之徒然拾遺録』
に登場する人物は一味違う。
茉莉を裏切った元友人、いじめを放置していた担任。
これらの非力な人々が、ギリギリのところで茉莉の為に勇気ある一歩を踏み出してくれる。
この演出がなかなかにニクい。
強い引きのある構成、おどろおどろしい演出、そして他人の為に行動できる魅力的なキャラクター達。
薄暗い夜道を優しく照らす、心温まる妖怪譚『おぼろのことり~怪之徒然拾遺録』を私はオススメします。