あるいは世界でいちばん優しい復讐譚
- ★★★ Excellent!!!
概要にもあるとおり、本作は自殺をしようとした主人公の西野青年が、一人の少女に助けられるところからはじまるお話です。
冒頭の自殺未遂のシーンはとても印象的で、ブラック企業で心をすり減らした西野青年の心理描写には身につまされるものがありました。上司の罵倒や周囲の侮蔑もさることながら、1章3節のタイトルにもなっている『生きてる価値のない人間だから』という感覚に苛まれるのがきついんだよね、と思ったのはわたしだけではないでしょう。
ともあれ、そんな西野青年を助けて、復讐をもちかけるのが少女“ヨミ”です。ちょっと生意気で、斜に構えていて、ちょっと曰くありげな少女“ヨミ”はとても魅力的で、彼女のいう復讐がどんなものなのかが気になって、中盤以降はほとんど一気読みでした。
その復讐の真相というか行く末については、是非本編を読んで確かめていただきたいのですが、罵倒や侮蔑に対して怒りや憎しみよりも先に自分を責めてしまう西野青年は結局のところ優しい人なのだと思います。青年にある隠し事をしている“ヨミ”にしても、本人が思うよりずっと優しい。たとえ世界がそれを弱さだと断じるとしても、善性を捨てずに生きようとする二人の選択を、わたしは尊いと思いました。
復讐というにはあまりにも細やかな、けれど優しい二人によく似合う復讐譚。とても面白かったです。