第7話 初夜

健吾は、ベッドに横になりぼんやり天井を見上げていた。


「明日で合宿終わりやね。なんかいろいろあったけど、楽しかったわ。直くんと付き合えたし」

"直くん"という慣れない呼び名がまだ照れくさく、口元がかすかに緩んだ。


「俺も帰ると思うと寂しい」

直哉はベッドにあぐらをかいたまま、じっと健吾を見下ろしている。 強い瞳にまっすぐ射抜かれて、健吾は頬がじりじりと熱くなった。


健吾は、横になったまま片腕で額を覆い、直哉の視線から逃げるようにした。

「……そんな真っ直ぐ見るなや。恥ずかしいわ」


視界の端で、直哉の姿勢は微動だにしない。真剣な瞳で、健吾を見つめている。


「……なんでそんな顔するん」

照れ隠しに笑みを浮かべたが、鼓動は高鳴り、声はかすかに震えた。


「健ちゃん……」

直哉は低く名を呼ぶと、ゆっくりと息を吐き、立ち上がった。

その足は静かに健吾のベッドに歩み寄り、ぎしっ、と小さな軋みを立てて、健吾の隣に横になった。ベッドは狭く、二人の肩と腕は自然と触れ合い、直哉の熱が健吾に伝わった。


直哉の腕が、健吾の頭の後ろに回った。ぐっと力強く引き寄せられる。


「健ちゃん、顔見せて」

健吾は、小さくうなづくと、ゆっくりと首を動かし、直哉の方へと顔を向けた。


触れ合いそうなほどの距離で視線が絡む。直哉の瞳は、真っ直ぐに健吾だけを映していた。


「……直くん……」

健吾は唇をわずかに震わせ、思わず名を呼ぶ。

直哉の息遣いを感じ、健吾はゆっくり目を閉じた。

そして、そっと、二人の唇が重なった。


健吾には、これが生まれて初めてのキスだった。

触れた瞬間、柔らかな感触に震えが走った。

胸の奥からせり上がる熱が、そのまま体を突き抜けていった。


「……っ」

健吾は目を強く閉じ、シーツを握りしめる。ただ、胸の鼓動がやかましく鳴り響いている。


唇が離れた後も、そこに残る温もりが消えず、健吾の頬は真っ赤に火照っていた。


「健ちゃん、初めてなん?」

直哉は唇を離したあと、掠れた声で問いかけた。


「……うん……はじめて」


直哉はふっと笑みを浮かべ、健吾の短い髪をそっと撫でる。

「そっか……俺が初めて、もらってもうたんやな」

その言葉に、健吾の胸はますます熱くなった。


「もう一つ、初めてもらっていい?」

直哉は健吾を抱き寄せたまま、低く囁いた。


「……うん……なに?」

健吾は上目づかいに直哉を見返す。


「ちょっと、口すこし開けて」

直哉の言葉に、健吾は一瞬戸惑ったが、震える唇をわずかに開いた。


次の瞬間、温かく湿ったものが唇に触れた。それは、隙間から口の中に入り込み、健吾の舌に絡みつく。


「……っ」

頭が真っ白になる。初めての感触に、健吾はただ必死に息を呑み、目を閉じて受け入れるしかなかった。


「んん……っ……」

思わず健吾の喉から声が洩れた。


「……かわいい声」

直哉が低く囁き、さらに深く再び唇を押しつけてくる。


舌が絡まり合い、口の中で熱が混じり合う。

そのさなか、直哉の手がゆっくりと下へ滑り、短パン越しに健吾のそれに触れた。


健吾の肩が大きく跳ねる。

「あ、ああ……ダメ……っ……」

思わず声がこぼれ、必死に身をよじる。


けれど直哉の手はそれを逃がさず、布越しに優しく包み込むように愛撫した。


健吾は苦しげに息を洩らし、すがるような声で言った。

「直くん……今日はまだ……気持ちが整理できなくて……」

瞳は潤みながら、揺れている。それでも、まっすぐ直哉にそう告げた。


「だめなん?」

直哉は困ったように眉を寄せながら、どこか愛おしげに問い返す。


「……俺、付き合うのもキスも初めてやし……まだ、エッチとか……全然、頭おいつかなくて……」

健吾は視線を泳がせ、途切れ途切れに言葉を絞り出した。


「そっか……」

直哉は小さくつぶやき、健吾を見つめた。

「でも、健ちゃんの気持ちが一番大事や。二人で……少しずつな」


「……いいの?」

健吾は甘えるよう声で確かめる。

声はまだ震えていたが、表情には安堵が滲んだ。


「でも……」

直哉は健吾の髪に顔を埋めるようにして、低く呟いた。

「俺、硬くなってて……ちょっと限界かもしれん……」


その言葉の意味は痛いほど分かる。けれど、どう応えていいのか分からない。

「……直くん……」

火照った頬を隠すように顔を伏せ、健吾はただ小さく名前を呼んだ。


「今日は……エッチはせん」

直哉は息を荒げながら言った。

「でもさ……お尻、さわらせてくれん?」


「え……そんな……」


「お願い……限界なんや……」

直哉の声は震え、懇願するように言った。


「……ほんまに、触るだけ?」


「うん……触るだけ。」


「ええよ……直くん」

健吾が小さくうなずくと、直哉の瞳がぱっと輝いた。


「健ちゃん……ちょっと立って」

促されるまま、健吾はぎこちなくベッドから立ち上がる。


直哉はその背中に腕を回し、ぐっと抱き寄せた。二人の下半身は短パン越しに大きく突き出し、こすれ合い、布地がぴんと張りつめているのが互いに分かる。


直哉は熱を帯びた声で囁いた。

「……触らせてもらうで」

そう言って、ゆっくりと手を下ろし、短パン越しに、健吾の丸い尻に指を這わせた。「うぅっ….」直哉の喉から低いうめきが漏れる。まるで、長いあいだ抑えこんででいた思いが一気に満たされたような声だった。


直哉の指先が尻を撫でる感触に、健吾は声を震わせ、肩をすくめる。

「んぁっ……」

全身が熱に包まれていく。


直哉の手が健吾の腰元へ向かい、ウエストのゴムに指がかかる。

「…っ!」

抗う間もなく、布地が下へと引きずり降ろされた。


硬く立ち上がった健吾のそれに布が引っかかり、前は覆われたまま。

しかし、白く引き締まった尻だけが、無防備に露わになった。


「……あかん……こんなん……」

健吾は膝が震えた。


直哉は目を細め、指で尻の丸みをなぞりながら、唇を健吾の耳に寄せて囁いた。

「……めっちゃすべすべ。健ちゃんのお尻」


「恥ずかしい……」

健吾は、訴えるような声を漏らした。


直哉は口元をかすかに歪め、わざとらしく低い声で囁いた。

「お尻は触ってええんやろ?」


「そ、そうは言ったけど……」

健吾は腰を引こうとするが、直哉の腕にしっかり抱き寄せられて逃げ場がない。


直哉の掌が白い尻の丸みを包み込み揉み上げる。

「やっぱり……柔らかいなぁ、ずっと、生で触りたかったんや」


「んっ……やめて」

指が食い込むたびに、健吾の身体は小さく跳ね、声が漏れる。


「このお口、少し黙っとき」

直哉はにやりと笑い、そう囁くと深く口付けた。


「んっ……!」

唇を塞がれ、熱い舌が深く差し入れられる。

舌先がねっとりと絡みつき、健吾の喉からくぐもった声が洩れた。


直哉の手が尻に強く食い込み、動きは次第に激しさを増していく。

「んんん……っ!」

健吾の腰は勝手に揺れ、脚に力が入らない。


直哉は唇を離さず、舌で口内を蹂躙するように絡ませながら、両手で尻を掴み上げる。直哉の両手が健吾の尻にさらに深く食い込み、外側へとぐっと開かれた。


「んんっっ……っ!」

健吾は驚きに体をよじり、必死に逃れようとする。

だが背中から抱きすくめられる形で押さえつけられ、思うように動けない。燃えるような羞恥が胸に広がった。


「なにすんねんっ……」

涙声混じりに訴えるが、声は口付けに塞がれ、くぐもった呻きにしかならない。


直哉はそんな健吾の反応すら愛おしそうに目を細め、強く抱き寄せたまま囁いた。

「……ごめんな、怖がらすつもりちゃうねん。ただ……どうしても触りたくて……」


「やめてや……恥ずかしい……」

健吾は顔を背け、潤んだ瞳を隠そうとする。


「ふふ……その顔、めっちゃ可愛い」

直哉は小さく笑い、逃げようとする頬をそっと両手で包み込む。


そして、唇を寄せ、柔らかく口づけた。唇の温もりが、健吾の恥ずかしさを上書きするように甘く広がっていく。


「今日は……ここまでにしよっか」

直哉は健吾の耳元に唇を寄せ、低く甘い声でささやいた。


「……めっちゃ恥ずかしかった……俺のお尻になにしてんねん……」


直哉はその言葉に思わず吹き出しそうになりながらも、愛おしそうに笑みを浮かべる。

「ごめん、ごめん。でも……可愛すぎて、我慢できひんかったんや」


「もうっ….」

健吾は唇を尖らせ、直哉に背を向けてベッドに横になった。


「……健ちゃんのこと、ほんまに大事に思ってる。だから、二人でちょっとずつな」

直哉も並んで横になると、背を向ける健吾を包み込むように腕を回した。


「……直くん……」

健吾は抵抗せずに直哉に身を預けた。


「大丈夫。もう、ほんまに何もせえへん。ただ、こうしてたいだけや」

低く穏やかな直哉の声が、健吾を安心させた。


鼓動と鼓動が背中越しに重なり合い、やがて静かな呼吸だけが二人の間を満たした。安らかな沈黙が、そっと二人を包んだ。


すると、その静けさの中、不意に、驚くほど透き通った小さな歌声が健吾の耳に響いた。


"I love you 今だけは悲しい歌聞きたくないよ

I love you 逃れ逃れたどりついたこの部屋…"


健吾は驚いて、歌声のするほうへ顔を向けた。直哉が笑みを浮かべ、健吾を見つめながら、ささやくように歌っていた。


"きしむベッドの上で優しさを持ち寄りきつく体抱きしめ合えば

それからまたふたりは目を閉じるよ

悲しい歌に愛がしらけてしまわぬように…"


そう歌うと直哉は健吾を背中から強く抱きしめた。


「俺らみたいやろ?この歌。大好きな歌やねん、健ちゃんに聴いてほしかってん」

直哉は健吾の頬に顔をよせ、つぶやいた。


健吾の視界はふっと滲み、声も出せないまま、うなずいた。


"それからまたふたりは目を閉じるよ

悲しい歌に愛がしらけてしまわぬように…"


健吾は直哉の温かい胸の中で、静かに目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BL 夏合宿 にゃろめ @mochamaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画