第6話
更新遅れました!ついに完結です!今回は今までより少し長くなっております!どうぞお楽しみください!
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私は、ひたすら走りました。走って、走って、転んでも、人にぶつかっても、走り続けました。
「見つけ、た、っ!」
やっとの思いでたどり着いたそこには、ご主人様が十字架に縛り付けられていました。祈るかのように胸の前で手を合わせ、目を瞑っているご主人様。
そしてその周りでは、火が、ゴウゴウと燃え盛っていました。
「間に合わ、なかっ、た?」
その瞬間、視界が歪みました。涙のせいだと気づくには、私は正気じゃなさすぎたのです。
すると、ご主人様がふと、目を開けました。私の声が、届いたのでしょうか。とバカなことを考えていると、ご主人様と目が合いました。
ご主人様は嬉しそうで、でも、悲しさと切なさと、後、ほんの少しの後悔が滲み出る、歪な微笑みを浮かべていました。そして、一瞬目を伏せたかと思うと、口を動かしました。
『ありがとう、メリア。元気でね。さようなら。』
そう、言ったように見えました。その瞬間私の視界は炎で遮られてしまい、ご主人様の姿は、炎に隠されてしまいました。
「いや、だ。なんで、なん、で………。」
なんで?嫌です、ご主人様。嘘ですよね、嘘って言ってください。ああ、そうか、これは悪夢なのです、きっとそうに違いないです。悪夢ならば、早く覚めてください。
「こんな夢、あんまりですよ。ねえ、ご主人様?」
そう呟いた私の声は、ご主人様に届くことなく虚空へと溶けていきました。
◇◆◆◆◆◇
あの後、私はどあうやって帰ったのか分かりませんが、部屋にいたところを発見され、保護されたそうです。執事のクレイグは、「ご主人様に、メリアには伝えないように言われていたので、伝えることができなかった」と、目に涙をにじませながらも伝えてくれ、何度も謝ってくれました。他の人からもすすり泣きが聞こえてきて、みんなご主人様の死を悲しんでいるのがわかりました。
でも、私の心は1ミリたりとも動くことはありませんでした。
ご主人様が死んだことで、心にポッカリと穴が空いてしまったようでした。そのせいか、感情が抜け落ちていってしまったかのように、何も感じなかったのです。
そんな自分が恐ろしくて、どこか、誰にも会うことのない場所に逃げてしまいたい衝動に駆られました。
それでも時は進み続け、私たちは別々の場所で働き始めました。メリアは、エルといっしょに第一王子のメイドとして働くことになりました。普通に考えたら自分の命を狙った人のメイドなんて雇うはずないので、やはりご主人様は嵌められていたんでしょう。処刑がメリアのせいではなかったことに安心しましたが、それ以上に腹が立って仕方がなかったです。
でも、第一王子に仕えるくらいならメリアも処刑されたかったと思ってしまうのは、望まず処刑されたご主人様に失礼でしょうか。そんな事を考えながら仕事をしていたある日のことでした。仕事終わりにベッドで寝転がっていたのですが、ふと、窓の外を見上げると、夜空に一つだけ星が浮かんで、メリアを呼んでいるかのように瞬いたのです。その瞬間、メリアの体は動き出していました。メイド長や王宮警備をしている傭兵の目を掻い潜って、王宮の最も高い塔に来ました。
そして先ほどの星を探しましたが、雲に隠れてしまったのか、見えなくなっていました。
「ご主人様、なんで何も言ってくださらなかったのですか……。」
そう言いながらご主人様との生活を思い出していると、冷たい風が鋭く吹き付け、メリアの体はもちろん、心まで冷やしていくかのようでした。体の芯まで冷えていくと、もうこのまま永遠の眠りにつくかのような気がして、でも、そのほうがいいような気もしてきていました。
たくさんの思い出に思いを馳せていると、ふと、ご主人様がメリアのことを拾ってくれた日の情景が浮かび上がってきました。そして、あの日にご主人様と交わした約束も。
『メリアね、ずっとご主人様につかえるの!』
『ふふっ、そうか。じゃあお願いしようかな?』
『うんっ!』
「そうでした。メリアはご主人様に永遠の忠誠を誓ったじゃありませんか。」
なんで忘れていたのでしょうか。ご主人様との一番大切な記憶だったはずですのに。
「さて、行きましょうか。ご主人様との約束を果たしに。」
ご主人様、少し詰めが甘かったですね。メリアが、いや、私が、ご主人様においていかれるのを黙ってみているわけがないじゃないですか。私は、約束は守るのです。どんな手段を使ってでも、ね?
「待っててください、ご主人様。今そちらに向かいますから。」
エルグラムには申し訳ないですが、私は先に行きます。あ、そうだ。偉い人たちは遺言なるものを残すようですから、私も靴と髪を縛っていたリボンを変わりとして置いておきましょうかね。
「さようなら。」
私はそこから身を投げ出しました。
地面にぶつかるその瞬間、ご主人様の声が聞こえたような気がしました。
神様、これが私の最期の祈りです。
次の世界でも、ご主人様と共に過ごせますように。
アーメン
アーメン〜孤児院出身メイドの最期の祈り〜 宵裂 ツバメ(旧:琥珀) @kohaku37re
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