くものベッド

霜月あかり

くものベッド

ある夜のこと。

空にぷかぷかただよう、ひとつの雲が、ふわぁっと大きなあくびをしました。


――ぼく、ベッドになってみたいな。

ふかふかだから、きっと気持ちいいと思うんだ。


その声をきいた月が、にっこりほほえみました。

「いいねえ。じゃあ、明かりをともしてあげよう」


月のひかりが、雲をやさしく照らします。


すると、小さなことりが一羽、ひらひらと飛んできました。

「ねえ、ちょっと休んでもいい?」

「もちろんさ」


ことりはすやすや眠りはじめました。


つぎに、星ぞらからおりてきたちょうちょが、きらきら光をまといながらやってきました。

「ぼくも、ここでひとやすみしていい?」

「もちろんさ」


ちょうちょはふかふかの上で目をとじ、星たちがやさしく見守ります。


しばらくすると、子ねこがよいしょ、よいしょとのぼってきました。

「なんだか、さびしくて……」

「だいじょうぶ。ここにおいで」


すると月が、ぽっかりとしたあかるい影をおとして、子ねこをあたたかくつつみました。


さいごに、ひとりの子どもがやってきました。

なかなか眠れなくて、夜空を見あげていたのです。


「ぼくも、のっていい?」

「もちろんさ」


子どもが雲のベッドにごろんと横になると、胸がふわっと軽くなりました。

すぐにまぶたが落ちて、すやすや夢の中へ。


「おやすみなさい。いい夢を」


月と星たちが声をそろえてささやきます。

雲はみんなをのせたまま、夜空にふわふわとけこんでいきました。

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くものベッド 霜月あかり @shimozuki_akari1121

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