1-11 - 氷晶の絆
その後、クリスタルラインは公爵家の倉庫というか資料保管庫をすべて漁った。
ラッキーなことに、ここは公爵が実験、とりわけ非人道的なものを行うための研究施設でもあったようで、人体実験等を要するお目当ての実験レポートはすべてここにあった。
「ネルソトリス・クォーツ花? 聞いたことないな」
「らしいよ。……んと、それから抽出できる成分は魔法や能力に関する作用があって……」
ロイとクリスタルラインは公爵家邸近くの、先日の秘密基地にて持ってきたレポートを読んでいた。
それによると一度焼き切れた能力を再生するには、ネルソトリス・クォーツ花という物が必要らしい。リスクは大きいものの、魔力量あるいは魔法の質をぐっと高めるためのサプリメントとして使われたこともあるらしい。
白い半透明な花びらを持った幻想的な植物だが、魔力が濃い場所で育つと青い花びらになる。
魔力量をドーピングするのならばそれらの白い花で十分だが、クリスタルラインのように、一度完全に焼き切れてしまった能力を再生するには青い花が必要だ、と記されている。
「そういうのは検閲官さ……検閲官に持ってきてもらえばいいだろ?」
「もう持ってきてくれたよ……えと、薬の調合? 抽出? は今夜ぼくがやるつもりなんだ」
「順調だな。そいつはよかった」
「えへへ……」
検閲官が集めてくれたという青い花を一本手に持ち、照れくさそうに笑うクリスタルライン。
「……ぼくね、これで友達を助けるつもりなんだ」
「ともだち」
どうやら話が始まるらしい。ロイはレポートから視線をずらし、彼女の話を聞く姿勢になった。
「うん。ぼくの大好きな友達。……でも、病気に罹っちゃって、検閲官さんが言うには、俺でもどうしようもないって……えっと、なんだっけ、世界の歪み? を取り込んで、魂に異常をきたしてるって言ってた」
「それは……かなり重大だな、おい」
「お医者さんも治せないだろうし、このままだと一週間で魂が変質して、別人になっちゃうって……だから、ぼくが、この能力で救ってあげたい」
そういえばクリスタルラインの能力が何か知らないな、とロイは首をかしげる。
「僕の固有魔法は『壊時の道標クリエイト・ブレイクスルー』――存在しない世界の分岐を作り出す能力。でも、一度使ったら焼き切れてしまうの。もうずいぶん昔だけど、使っちゃってそれっきりで……」
「……その時は?」
「隣国の兵隊さんが攻めてきたときに、『仲間を護れる力を手にする』っていう分岐を作ったんだ。それで検閲官さんがぼくに宿ってくれた……けど、えっと、みんな、検閲官さんが怖くて逃げちゃった」
「……」
「その時にひとりだけ、ぼくと一緒にいてくれたのが、その友達なんだ」
ロイはいつの間にか自分の目に涙が浮かんでいるのに気付いた。悲しい過去と麗しい友情のお話とでも言えばいいのだろうか、ともかくロイはそんな感じの話に弱かったりする。
「なら、さっさと帰ってやれ! 一刻を争うぞ」
がしっとクリスタルラインの腕を掴んで、立たせる。
「……うん!」
クリスタルラインはロイにぎゅっ……と抱き着いた後、晴れ晴れとした顔でポータルを出現させ、それをくぐって行った。最後に、検閲官の触手もゆらゆらと手を振り、霧散して消える。
「……俺も俺で、やることをやらないと――」
「天誅ゥウウウウ!!!」
「うわぁ、死ぬ」
いつの間に新しいゴーレムを用意したのか、また断罪の剣で突き刺そうと奇襲してきたヴァリアブルが現れる。
ロイはビビり散らかしながら一目散にその場を走って逃げたのだった……。
不思議なセカイにりんごを添えてβ ルークアイド・チェス @melting_star
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