第46話 うん、何というか凄い無理して良い子を演じてるように見えちゃって

 昼食を終え昼休みがあと少しで終わるタイミングで俺は教科書と筆記用具一式を持って教室を出る。次の授業は芸術科目となっているため教室を移動しなければならない。だから他のクラスメイト達も続々と教室を出始めている。

 ちなみに芸術は選択式になっていて音楽と美術、書道から選ぶのだが、紗奈は美術で俺と瑠花は音楽を選んでいた。そのため次の授業は瑠花と一緒だ。音楽室に着いた俺はまだ授業が始まるまで時間に余裕があるため先にやって来ていた瑠花に話しかける。


「なあ、今ちょっとだけいいか?」


「うん、大丈夫だよ」


「実は紗奈のことなんだけど」


 俺の言葉を聞いた瑠花はほんの少し悲しそうな顔になった。やはり瑠花もあんなふうになってしまった紗奈のことはかなり気にしているらしい。


「紗奈ちゃんがどうしたの……?」


「率直な意見を聞きたいんだけど瑠花の目から見て今の紗奈はどんなふうに見えてる?」


 さっき秋夜からの何気ない問いかけのおかげで紗奈の異変の原因がほんの少し分かったような気はするが、まだ決定的な手がかりが掴めていなかった。秋夜のおかげで他人の視点が重要だと気付いた俺は瑠花にも意見を聞いてみることにしたのだ。俺の質問に対して瑠花は少し考えた後、ゆっくりと話し始める。


「私は転校する前の小学生の頃とこっちに戻ってきてから再開した紗奈ちゃんしか見てないんだけど、昔と比べて今は結構無理をしてるように私の目には見えてたっていうのが率直な意見かな」


「どういうことだ?」


「ほらっ、昔の紗奈ちゃんってハル君に対して色々とわがままだったり結構強引なところがあったよね? でも今の紗奈ちゃんは全然そうじゃないじゃん」


 なるほど、傍若無人で理不尽な振る舞いを紗奈が素直になったことに対して瑠花はそう感じたらしい。まあ、あれだけ俺に色々と無理難題を要求していた紗奈が大人しくなっていれば特に意識しなくても気付くか。瑠花はそのまま言葉を続ける。


「最初は紗奈ちゃんも成長して昔よりも精神的に大人になったのかなとか思ってたんだけど、普段の様子をよくよく見てるとどうもそうじゃないような気がしてさ」


「それがさっき言ってた無理をしてるように見えてる原因か?」


「うん、何というか凄い無理して良い子を演じてるように見えちゃって」


 その言葉を聞いて俺は全身に衝撃が走った。傍若無人な振る舞いをしていた紗奈が素直になったおかげで付き合いやすくなったと思っていたが、それは紗奈が無理をしていた結果だったようだ。

 ということは俺の目から紗奈が何かを押し殺しているように見えていたのはきっとそれが理由に違いない。なるほど、病院で激しく取り乱したあの日から紗奈はずっと無理をしていたのか。

 紗奈の変化にはすぐ気付く俺だが一番肝心なところには全く気付けていなかった。いや、素直になった紗奈との関係が心地よかったためあえて意識しないようにしていただけかもしれない。


「紗奈ちゃんの雰囲気が前より柔らかくなったことは私的にも全然良いと思う。だけど何かに怯えて過剰なまでに良い子になろうとしてるのが問題だし、大きなストレスの要因になってるんじゃないかな?」


「一体何が紗奈をそんなに怯えさせてるんだろう?」


「それは私にも全然分からない」


 その辺りは瑠花にも心当たりはないらしい。だがひとまず紗奈の異変の原因はかなり特定できた。後は本人に直接確認をするしかないような気がする。

 ここまでくればこの状況を何としても解決したい。これ以上今のギスギスした雰囲気が続いても誰も幸せにはならないと思うし。だから俺は今日の放課後、意を決して紗奈からその辺りの話を聞こうと決めた。


———————————————————


重要な章で色々考えることが多いため更新に時間がかかっていますが、頑張るので引き続きよろしくお願いします🙇‍♂️

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