2 モモイロワークス

2-1 - プレゼント

 桟橋さんばしコルクはため息をついた。


 コルクは現在授業を受けている。一時間目、歴史だ。


 歴史はコルクの最も苦手な教科である。一番の原因は、一昨年、去年、そして今年の歴史の授業がずっと退屈であること。


 面白くなくて退屈だと聞く気にもなれない――というのがコルクの意見。身勝手ではあるとまあ自覚こそしているが、気分はなかなかどうしようもないものだ。


 当然、テストの点数はひどい。前回のテストは16点だった。すべて『ア』にしておいた選択問題が40問中16問当たったのである。


 それにしても、この暇さはどうしようかな、と机にひじをつき、教科書をパラパラとめくりながらコルクは空を仰いだ。


「よー、コルク。勉強してるか?」


 休み時間が始まってすぐにコルクの席へやって来たのは、ふたつ斜め後ろの席の麻次京谷あさじきょうやだ。小学一年生の時からずっと同じクラスの、コルクの大親友である。


 黒い髪にくりくりした目。童顔だ。身長も低いので、とても高校生には見えない。不思議と制服は似合っている。左耳には小さなサイコロのピアスを着けており、本人曰く大事な人からもらった、とのこと。


「してるわけないよ。社会つまんないし」


「だよなー。俺もしてない」


 京谷はいわゆる天才型。授業を一度受ければ忘れない、素晴らしい頭脳の持ち主である。コルクのように社会を一切勉強しなくても、学年順位は必ず一位という強者。抜かれたことはない。まるでコルクとは反対だ。


 コルクが次の授業へ向けて化学の教科書を取り出すと、そこに何か挟まっているのに気付いた。


「ん、これ……手紙かな?」


「おっ、おめでとう! ラブレターだろそれ。うらやましいぜ」


 コルクは京谷を軽くにらみ、お前が言うな、と吐き捨てた。京谷には彼女がいるからだ。コルクは会ったことはないが、そんな感じの人がいると聞いている。


 京谷にせかされ封筒を開く。中には二枚の紙が入っていた。


『お買い上げありがとうございました。ここに領収書と商品を同封します』


 商品、というのはどうやら小さな半透明の歯車のことのようだ。封筒の中にはほとんど白に近い桃色の歯車が入っていた。


 しかしコルクには身に覚えがない。もう一度二枚の紙を見たが、連絡先はおろか販売人の名前さえもどこにも記されていなかった。


「きれいだなそれ。いつ買ったんだ?」


「こんなの買ってないよ。誰かが間違って入れたのかなあ……?」


「へー。でもまあいいじゃんか、無料でゲットできるし、もらっとこうぜ。いらないなら俺がもらうけど」


 買っていないのは確かだが、よく見ると封筒には『桟橋様』と記されているので、ありがたく貰うことにした。とりあえずポケットに突っ込んでおく。


「それじゃあ俺はなんかジュース買いに行くけど、一緒来るか?」


「うん。奢ってくれると助かる」


「うーん、二十円までならいいぜ」


 それじゃなにも買えないじゃん、とコルクは小さく笑った。

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どりーむどりーむないと…… ルークアイド・チェス @melting_star

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