1-13 エピローグ

「ふう」


「室内でタバコ吸うのやめて」


 慧と蓮、零太に那覇、それとスーやコペルやエミリアやポケットたちは、ちょっぴりおしゃれな喫茶店でケーキを食べていた。


 この集まりは、慧が『戦友の会』と称し、共に戦った仲間たちで何かをするでもなくのんびり過ごす集まりとして提案したものだ。


 ここにいない戦友はミラだけ。ミラは現在、天界の学校の指導室で、魔法を許可なく使用した罰として反省文を書かされているそうだ。


 反省文は普通なら原稿用紙十枚分だが、今回は事情があったため三枚にまで減らしてもらえたと、ポーラスというミラのいとこを名乗る人から慧にショートメッセージがきていた。ちなみに電話番号は数字ではなかった。


 そしてここには、戦友ではない人が二人いる。まずは夢。未だに事情を理解していないが、慧に「みんなで食事会やるんだ」と聞いた後無理矢理ついてきたのだ。理由は慧がほかの女性についていこうとするのを防ぐためである。


 もう一人は。


「ねえ、君、誰?」


「……優よ」


 あの後慧と蓮にこてんぱんにされ、その過程で蓮が手加減を忘れ左腕まで義手になってしまった優だ。


 夢を除いたみんなが、彼女が優であることは何となく察しがついていたが、質問せずにはいられなかったほど雰囲気が変わっている。


 後ろで束ねていた長い髪はばっさりと短く切り、肩の長さにまで短くなっている。地味な暗い色のセーターだった服装も、決して派手ではないが地味でもない、ひまわり色のワンピースに変わっていた。


「なんでそんなイメチェンしたの」


「なんでって……したいからしたのよ。何か悪い?」


「いや別に。あ、ウエイターさん。この『羽場スペシャル』とかいうパフェを一つください」


「じゃあおれっちもひとつ」


「おいらもー」


 この『羽場スペシャル』というのは、この喫茶店で最も高級なパフェである。ボリューム満点で観光客にも人気だ。ちなみに名前の由来は、喫茶店のオーナーの名字が羽場だからという単純な理由らしい。


 話を戻そう。


 この『戦友の会』は、一応優の謝罪会も兼ねている。これから優がみんなに謝るのだ。


「謝りなよ。迷惑かけちゃったでしょ」


 ポケットがそっと優に耳打ちする。


 優は小さく頷くと、席を立って、華麗な土下座を決めた。


「この度は! すごく迷惑をかけて! すいませんでした!!」


 なんとなく予想していたポケットと、偶然ニュースで謝罪会見を見たため日本の謝罪は土下座が常識だと勘違いしているコペル以外、全員が驚いた。いきなり土下座するとは思いもよらなかったのである。


 しかし何か言わないとずっと土下座していそうな感じだったので、わざわざ偉そうにふんぞり返った蓮が声をかける。


「面をあげよ。というかそんなされるとやりにくいし」


「でも」


「いうことを聞く」


「……」


 優は、少し悔しそうな顔をしながらも蓮の言葉に従い、元の位置に戻った。


 次に立ち上がったのは零太である。


「とりあえず一発殴らせろ。あれ結構痛かったんだぞ」


 零太が全力で頬をぶん殴る。バチィイインと痛そうな音がして、優は気を失った。ガクッと崩れ落ちる優をコペルが支える。


「……やりすぎたか」


「ちょっとゼロ兄……」


 それ以外は特にハプニングもなく、『戦友の会』はのんびり終了した。ちなみに優はその日ずっと目を覚まさなかった――これがとてつもなく大きいハプニングなのかもしれないが、会の面々はそこまで重く見ていないらしい。




「今日は楽しかったネ」


「うん」


 ベッドに入ると、スーが話しかけてきた。


 スーは歯車を光らせる能力を習得したとかで、さっきから枕元で歯車を点滅させている。おかげで慧は全く寝られない。


 もう眠気も醒めてしまったし、まあいいか。


「また今度集まろうか。みんな、ミラもちゃんと呼んで」


「おー、いいぞいいぞ。おれっち、次はゲーセンに行きたいかな」


「よし、じゃあ次はあそこのゲーセンにしよう」


 楽しい夜も更けていく。


 その日は朝日が昇るまで、二人でしゃべり続けた。

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