概要
——あの日、台所から消えた鍋は、戦場で血に染まった。
◇◆◇
第二次世界大戦中、
家庭の鍋や釜までもが「お国のため」に
供出を強いられた。
ある母が差し出したのは、
赤銅色の蓋をもつ大切な鍋。
家族の食卓を支え、
父の不在を埋めていた唯一の器だった。
しかし鍋は二度と戻らず、
鉄屑として溶かされ、戦場で血に染まった。
食卓を囲む象徴は、
人を殺す鉄に変えられてしまったのだ。
戦後に生まれた語り手は、
一度も見ぬその鍋を「紅の蓋」と呼び、
母の記憶を受け継いでいく。
そこにあるのは懐かしさではなく、
取り返しのつかない喪失と、戦争の虚しさ。
——紅の蓋は、もうどこにもない。
だが、その不在こそが、
最も雄弁に戦争を語っていた。
第二次世界大戦中、
家庭の鍋や釜までもが「お国のため」に
供出を強いられた。
ある母が差し出したのは、
赤銅色の蓋をもつ大切な鍋。
家族の食卓を支え、
父の不在を埋めていた唯一の器だった。
しかし鍋は二度と戻らず、
鉄屑として溶かされ、戦場で血に染まった。
食卓を囲む象徴は、
人を殺す鉄に変えられてしまったのだ。
戦後に生まれた語り手は、
一度も見ぬその鍋を「紅の蓋」と呼び、
母の記憶を受け継いでいく。
そこにあるのは懐かしさではなく、
取り返しのつかない喪失と、戦争の虚しさ。
——紅の蓋は、もうどこにもない。
だが、その不在こそが、
最も雄弁に戦争を語っていた。