第15話「それでも、あなたと笑いたい」

杉見未希

第15話 それでもあなたと笑いたい

週末の午後。

窓の外から、風の音と遠くを走る車の音がかすかに届く。

美羽はひとり、ベッドに寝転びながら天井をぼんやりと見つめていた。

あの日のすれ違いのあと、胸に残っていたのは小さな不安と、伝えられなかった言葉たち。


そんな時、スマホが震えた。

画面に浮かぶのは、拓真からのメッセージ。


「今日、少しだけ話せる? 無理だったら、また今度でも大丈夫だから」


どこか遠慮がちなその文面に、美羽の胸がじんわりとあたたかくなる。

「話すの、まだ怖いかもしれない」──そう思う一方で、それでも会いたい気持ちが勝った。

笑いたいって思える人がいる。それだけで、今の私には十分だ。


***


静かな喫茶店。

向かい合ったふたりは、少しだけぎこちない笑顔を交わした。


「……怒ってないよ」

「……私も、ちゃんと話せてなかっただけ」


それは謝罪でも言い訳でもない。

ただ、心にしまっていた想いを、そのまま言葉に乗せただけだった。


「わたし、ちゃんと伝えるのは苦手だけど……

それでも、拓真さんと話したいし、笑いたいって思ったの」


その言葉に、拓真は少し驚いたように目を見開き──そして、やわらかく笑った。


「ありがとう。……俺も、そう思ってた」


その日、ふたりは特別なことは何も話さなかった。

天気や好きな音楽、どうでもいいような話ばかり。

でも、ちいさな笑い声が、何度もふたりの間を行き来した。


前よりも、少しだけ。

ふたりの心は、近づいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

第15話「それでも、あなたと笑いたい」 杉見未希 @simamiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画