つきにうさぎ
白縫いさや
つきにうさぎ
「ツキがある」
と書くと、運が良いように見えるが、
「月がある」
と書けば、読み手は天体としての月が浮かんでいる様子を想像するだろう。
日本語とは稀有な言語で、ひらがな、カタカナ、漢字(、その他各種記号)という様々な種類の文字を同時に組み合わせるものである。多様な文字が混在しているおかげで、日本語での文芸は風変わりな遊び方ができるものだと思う。
たとえばこんな風に。
つきがある。
草むらから、ぴょん、とうさぎが顔を出した。隣でウサギがうさぎに気付いて振り向く。ウサギはうさぎの姿を見て、自分とは違うところがあるなと思った。うさぎが跳ねたら、もふ、ぽふ、という擬音が似合いそうだが、ウサギが跳ねたら、背景のつきに対して黒い影が風のように通り過ぎるようで、ちょっと鋭すぎるように思う。月を背景にしたら、たぶんちょうどいい。
つきにうさぎ、月にウサギ?
兎が異議を申し立てる。兎にこそ月だろう、と。しかしウサギは譲らない。うさぎはきょとんとやり取りを見ている。つきと月は並んでお互いの丸さを褒め合っている。ツキは自分をつきや月の仲間に含めていいのか迷っている。つきと月とツキは、ツキを頂点として夜空に三角形を結んでいる。うさぎはツキとつきと月を見て首を傾げている。うさぎの後ろではウサギと兎がひと塊になって草むらを転げまわり、喧嘩をしている。
いけいけー、やれやれー、とけんかとケンカがヤジを飛ばしていて、やじと野次は次に自分が飛ぶのを待っている。
つきにうさぎ 白縫いさや @s-isaya
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