夕日色の恋文

@hisae-cony

第1話  夕日色の恋文

 あなたなんて嫌いだった。


 顔がいいーーそれだけで評価される男。


 父の命令とはいえ、応援をしなければならない。

 だから、あなたの実績、語ってきたのにーー


 あなたは、他の支援者と、笑顔で笑って、

 SNSにアップされてーー


 スマホを潰してやろうかと思えるほどの怒り。

 そして、強い感情が、彼を罵倒した。


『他の方が望む形を取りたい。あなたに理解してほしい』


 理解してほしい?

 だったら、理解させろ!!


 心の中の喧嘩腰の返答は、私を彼の元へ向かわせた。

 何度も何度もーー。


 遠くから、あなたを見ていた。

 一人一人に丁寧に対応し、笑っていた。


 目が離せなくなる自分ーー

 会いに行くのに、足取りが軽くなっていく事実ーー


 そして、整っていく、自分の身なりーー


 あの人が応援されてるのは、顔だけじゃないんだ。


 帰りの電車の中の夕日が、私の恋を知らせた。


 SNSで彼の投稿をチェックした。

 コメントしたら、丁寧な返信。


 あなたと向き合って、いいですか?


 行間を込めた恋文は、あの日の夕日と同じ色をしていた。

 きっと、私の頬の色もだろう。


 彼への応援も終わり、告白しようと決めた時、


「あいつ、もうすぐ2人目が生まれるんだ」


 父の言葉は、私の場面から床をなくした。


 もう彼はいない。

 あんなに近くにいたのにーー。


「あの時、感情をぶつけてごめんね」


 返ってこない返事。

 滝のように流れる涙が、私の本気度を教えてくれた。


 せめて、好きって言いたかった。

 あなたの家庭を壊さないからーー。

 自分の気持ちは知って欲しかったーー。


 SNSで、今日も彼は発信してる。

 笑顔の彼を見られない。

 動画を閉じようとした、そのときーー。


「ぼくは、実は、怒ったことなくてさ。怒れない性格で。怒る前に悲しんじゃう。おかしいだろ」


 あのとき、怒ってなかったんだ。

 悲しませてしまったんだ!


 事実を突きつけられて、胸が張り裂けそうになったときーー。


「世の中ひどいこと言う人がたくさんいるけど、僕は、言う方の心も傷ついてるんじゃないかって、勝手に解釈してる」


 私に向けて言ってくれてるの?

 これが、あなたの返事なの?

 ずるいよ、こんなやり方。反則。


「反則王子」


 皮肉めいた言葉は、涙を誘った。


 スマホが鳴った。


「聞いてくれてたかな?泣き虫さん。謝罪なんて良かったのに。でも、ありがとう。忘れないよ」


 SNSの投稿、私だと分かってたの?


「反則王子」


 涙は、嬉し涙に変わった。


 夏の日の恋、ありがとう。


 私も忘れないーー。

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