第5話 私は彼の婚約相手よ、仮のね
どうして、彼女が桃色の着物で目元を包帯で隠していることが特徴である、給仕係たちの休憩部屋にいるのかは疑問であったが、おそらく客室へ戻ろうとして道に迷ったであろうことだけはわかった。綺麗にみがかれた廊下を早歩きで通り抜けて休憩部屋へと向かう。そして、襖を手早く開けた途端に広がる光景をみて思った。彼女が自分抜きでは半日ともたないとは、我が王にしてはだいぶゆるい目測であるということ。
「迷い子、発見。変顔」
「あら、それは大変ですわ。声をかけて私たちで保護しなきゃいけませんね」
「聴取」
「私たちの質問に答えるだけです。大人しくついてきてもらいますね」
「はやく、下へ降ろしなさいよ。後でどうなっても知らないんだから! 第一あなたたちに答えることな──」
次の瞬間、ふわりと浮いた体は自分よりもあおきい体格の少女の元へと飛んでいく。彼女によってがっちりと雑に横抱きにされた後は、彼女たちの休憩部屋へとそのまま連れ込まれた。
部屋にはたくさんの少女たちと同じ桃色の着物で目元を包帯で隠した女性たちがいたが、
「何者? 大広間の謁見、主人と親し気」
「それもそうなんだけど、その奇妙な妖力と白髪……にしては。なんだかちんちくりんだよね。まさか他所からの客人だったり?」
「あのねぇ、二人で意見を合わせなさいよ。何が聞きたいのかさっぱり、私の方が聞きたいことだらけよ。まずは名前く──」
「主人、関係性」
片言な言葉で問い詰めてくる方が小柄な少女。彼女は
「私は彼の婚約相手よ、仮のね」
何か悪いことがあるかとでも言いたげに
とりまきらの包帯で隠れて見えないはずの眼の圧。向けられた視線が鋭く攻撃的になった。それでも
ただ、休憩部屋には今にも妖力やら武力を用いた実力行使が行われそうな雰囲気がただよっているので、これから何をされるのかと身構えてはいたが、小柄な少女による妖力での拘束が急に解かれたので、思わず
「
「なぜ、私には名前も教えてくれなかったあなたのいうことを聞かなきゃならないわけ」
「
「そう。おかしいわね、
「……それは、耳がいたいお話ですう。──それでは失礼します」
彼女の元へゆっくりとした歩みでたどり着いた
「鹿ちゃんって、ずいぶんと偉い立場なのね。あなたが訪れたとき、あの子たち声すらあげなかったわ」
「偉いなんてことは断じてありませんよお。この屋敷で偉いのが主のみだというのは、みなの共通見解。私めが
「自己肯定感がおそろしく低いわね。結婚相手候補である、たいせつな私の側にいることを任されているわけだから、それだけ信頼されているってことよ」
「はあ。そんなこともないと思いますよお」
腕の中できゃっきゃとはしゃぐ彼女は自分のことを褒めるのだが、主が自分を彼女の側においたのは信頼や位などといった曖昧なものではなく、一つの明確な理由があるように思えた。ただ、その理由はひどく憂鬱なものなのでできれば言いたくないし、主張する場面にも出会いたくないものであった。
「あの子たち、罰せられたりしないわよね。鹿ちゃんってお屋敷の子たちの注意とか教育とかも担当しているわけ?」
「たんとう……。安心してくださいそういう類のものはありません。私たちは基本的には主の道具であり、与えられた役割を果たす手足になることが使命ですから。主のためになることをやる、主のためにならないことはやらない。それ以上も以下もございませんよお」
「なんだか熱いのか冷たいのかわからないわね」
「ですが……一つ申し上げるのであれば、この屋敷にいる女性はみな主の奥方様を常に狙っていることを念頭においた方がよろしいかと。私め以外」
「なにそれ!
色男としてみているかどうかは
ぼんやりしながら進んでいると、客室までたどり着いた。気がつくと腕の中の少女は寝息を立てていたので、そっと寝台へとおろす。
「私めは
まだ、
身寄りなき乙女の秘密の契約 シンシア @syndy_ataru
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