第3話 辺境聖女は環境を整える
私は恋を知らなかった。
いや……、正確には知っていた。
ただ忘れていただけ。
だって恋しても仕方なかったから。
私はずっと虚無だった。
聖域辺境とされるあの土地で、私は世界の理不尽を経験していた。
絶え間なく続く禁足地からの魔物や魔獣の襲来。
聖域での舞の儀式と継承。
私は女の子に生まれたから、生まれた時から『聖女』として生きてきた。
国にもしもが起こった時に、王族のうちの一人の男の子と一緒に国外に脱出するために。
私は、この国の女の子としては異質なくらいに鍛えていた。
禁足地での魔物と魔獣の間引きはもちろんのこと。
聖域での聖女に関する光魔法の習熟。
いつかくるかもしれないもしもに備えて……。
だがある日、この国の貴族、王族の義務である国立魔法学院への入学。
その道中で、私は『同じ運命』に導かれた少女と出会った。
ステラ・リアライト。
教会に聖女と認定された平民にのみ与えられる家名。
私はステラと出会って、『再び』恋をした。
☆
学院長と寮長にステラの部屋割りの話を進言したら清く賛成してくれたので、今は馬車から運んできた荷物を部屋に置いている。
王族に連なり、公爵家より上にある私の家はそれこそ王族クラスの個室が用意されたが、個人で使うにはあまりにも大きかったので、ステラと2人で使うことにしたのが提案の動機である。
「とりあえずこんなものかな……」
辺りを見渡す。
備え付けの家具以外に私が持ってきたのは冒険者用のカバンと暇な時に遊べる小道具くらいで、あとは貴族の社交会とかで使うドレスくらいなもの。
まあ、あんな土地で暮らしていたらこうもなろう。
「さて、ゆっくりしてますか」
私は腰のベルトを外して、ぶら下げていた剣を立てかける。
もう10年の付き合いもある聖剣のレプリカ。
少し綻びが出てきたから、親に申請して新しい物を作って貰うか。
「ステラは今頃どうしているのだろうか」
彼女の案内はアニエスにお願いしたから特に大事にはなってないはず。
ベッドの上で仰向けになりながら天井を見つめる。
一人になるとつい呟いてしまうのは、もう仕方ない。
かれこれ一人で生きる訓練をしてきたのだ。
こういう事にもなろうて……。
「はぁ…………。エルミア・シーエルか……」
私の家の諜報部が手に入れた情報。
非主流勢力の末端の男爵の家が見つけたというもう一人の『聖女』。
シーエル男爵家の娘――エルミアが聖女として覚醒し、その力を領民から有力貴族に使っているという情報。
第二王子をはじめとした聖騎士や聖賢者の息子との接触。
非公開での聖女の顕現。
確定に近い国家転覆未遂状態。
「やることが多いな……」
彼らの派閥は確実にステラに対して物理的、精神的な妨害をしてくると容易に想像できる。
『予言の書』で知らされた聖女は2人。
別にステラとエルミア嬢ということもできるが……。
なんか煮え切らない。
心のどこかではステラが正当な聖女だと確信している。
しているのに不安が残る。
この不安はいったい……。
「考えても仕方ないか」
今はステラが楽しく学院生活を送れるようにいろいろと手を回さないといけない。
学院長や寮長みたいな偏見や貴族価値観で彼女を判断する人がいないとは限らない。
いや、
だからできる限り彼女と一緒にいることにして、私の庇護下にあると内外に示さなければならない。
コンコンコン
「リピアさん。入ってもいいですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
部屋の扉を開けたステラを見たら、今まで考えてたモヤモヤが、霧が晴れるようにスッキリしていく。
まあ、いろいろあるだろうが、今はこの楽しい時間に酔いしれよう。
そのために私は彼女との同室を選んだのだから。
辺境生まれの私は平民生まれの聖女様に一目惚れしました アイズカノン @iscanon
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