第26話 団地の夜風とくだらない話

 夕飯を片づけて、お茶をすすりながらまったりしていた。

 団地の夜は静かで、外からはかすかに誰かのテレビの笑い声が聞こえていた。


「ねえ、あなた」とさつきがソファでくつろぎながら言う。「キティちゃんって、四足歩行か二足歩行か知ってる?」

「は?」旦那は目をぱちくり。「……二足でしょ? ランドセル背負ってんじゃん?」

「いや、でも手足短いから、実際は無理なのよ」

「無理じゃない。公式設定でそうなっているから。たぶん」

「ほら、たぶん、なのよ。この前、マリナさんに言われてハッとしちゃって」

「いや、普通に俺、キティちゃん二足しか見たことないし」

「絶対に? そう言い切れる?」

「……たぶん」

「ほら」


 二人で顔を見合わせて、同時に笑った。


「じゃあ」と旦那が言う。「もしペットにするなら、二足歩行の猫と四足歩行の猫、どっちがいい?」

「そんな質問ある?」

「ある。利便性が違う。二足は買い物袋持ってくれたり、色々できるから」

「それ最低な考え方じゃない? それに、四足だって、ネコバスめっちゃ便利じゃん」

「いや、あいつは四足じゃない」

「あ……何本だっけ?」

「諸説あり」

「……ちょっと怖くなってきたんだけど」

「それはちょっとホラーだな」


 テーブルの上で急須がカタンと鳴り、湯飲みが揺れた。


「……結論、ペットの話題は深入りしないことだ」と旦那。

「うん、犬派か猫派か、くらいにしないと」

「さつきはどっち?」

「え、んー、犬派かも」

「っていうか、二足歩行の犬キャラって、あんまいないよね」

「……うん、言われていれば」

「なんでだろう」

「ね」


 そんなくだらない会話の続きが、今夜はやけに気持ちよかった。

 団地の夜風がそっと通り抜け、二人は同じタイミングで、お茶を啜った。



<『影を連れて歩く子どもたち』 完>

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異世界団地の暮らし整え係――ふだん家事、ときどきゴツン 彗星愛 @susei-ai

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