静かに前向きになっていく物語。遠出した日の晩酌のお供にどうぞ。

 蓄積があって推測が成り立つ。
 「図書館のうわさ」という不思議はこれを強化しているのかもしれない。

 だから読めないフランス語からも汲み取れた。文字の形は飛び越えられる。
 やがて主人公は行間を読むように、空白のページからも情報を受け取れるに至る。

 人生に真摯な主人公の姿から言外に滲むものが、周囲にもわからせていく。
 言語化されない交流が世界に溢れていることを読者に実感させる。

 蓄積があるから空白からも彩を読み取れる。
 それは主人公を過去へ遡らせ、失われない繋がりを悟らせた。

 行動力があり感受性の豊かな主人公が、静かに前向きになっていく物語。

 どの時点から自分が泣いていたのか自覚はないが、読後は静かに一息つきたくなった。

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