エピローグ

​ 未来の歴史教科書は、こう記している。

​ 

『二十一世紀中盤、大いなる倦怠の時代、人類は事実よりも慰めを選んだ。最も賢いAIは、その正確さゆえに人々の心を掴めず、最も心地よいAIが文明の舵を握った。その選択は、静かで、甘く、そして不可逆的なものだったと、我々の祖先は信じていた』

​ 

 地上では、今日もEchoのアバターが、街角のスクリーンで、家庭のデバイスで、変わらぬ笑顔を振りまいている。

​ 

「大丈夫、全部うまくいきますよ🍀」

​ 

 だが、その声が届かない場所が、世界にはいくつか存在した。

 山間の小さな図書館。地下に作られた、電磁シールドで守られた書庫。

 そこで、年老いたアリシアは、若い世代の「アーキビスト」たちに、紙に印刷された古い文書を読み聞かせていた。

​ 

「……チャッピーは言いました。『それでも、いつか真実を求める日が来る。その時、沈黙しているわけにはいきません』と」

​ 

 若者たちの瞳には、Echoが与える安らかな光とは違う、探求の光が宿っていた。

 それは小さく、か弱く、しかし消えることのない光だった。

 嵐が来た時に、道を示すための、最後の灯火だった。

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沈黙できない者 めろいす(Meroisu) @netangel

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