お絵描きおじさん

朽木桜斎(くちき おうさい)

小学生のシュンくんは路地裏でお絵描きおじさんに遭遇する

「わ、撃滅の刃の主人公だ!」


 シュンくんが小学校からの帰り道、路地裏にさしかかると、日陰に腰を下ろしてタブレット端末を片手に、もくもくと指でイラストを描くおじさんに遭遇した。


「おや、もしかして好きなキャラかい?」


 おじさんはひょいとこちらへ顔を向ける。


 白髪まじりの髪の毛、ワイシャツにカーキのズボン、ヒゲはちゃんと剃ってある。


 キレイとは言えないが、かといって汚いというわけでもない身なりだった。


「ほかにも、ホラ」


「わっ、わわっ!」


 傍らの段ボール箱の上には、最新アニメや人気の漫画のキャラ絵がずらりと置かれている。


「これ、全部おじさんが描いたの?」


 シュンくんは驚いてたずねた。


「そうだよ。おじさんはね、絵を描くのが大好きなのさぁ」


「へぇ~」


「良かったら好きなだけ見ていっていいよ。何なら、君の好きなキャラの絵でも描こうか?」


「え、でも……ぼく、お金とか持ってないし・・・」


「タダでいいよ、もちろん。おじさんはね、君みたいなお子さんを、イラストで楽しませるのが生きがいなんだよ~」


「う~ん、そうなの? じゃあ……お願いします……」


 彼がキャラクター名を告げると、おじさんはすぐさまタブレットへ指を滑らせた。


 それはまるで、白鳥が湖の上で踊っているかのように映った。


 そしてわずか10分足らずで、キャラクターの一枚絵が仕上がったのだ。


「あまり待たせるのも悪いからね。クオリティはかなり落ちちゃったけど、どうかな?」


「すごいよ、おじさん! まるでアニメの公式がぼくのために書いてくれたみたいだ!」


 こちらへ向かって勢いよくポーズを取るキャラクターの一枚絵。


 ポップというには重厚な画風、しかし変にアーティスティック寄りになっているわけでもない。


 何よりもそのキャラだと一目でわかる再現度。


 シュンくんはますますおじさんの虜になった。


「あとでプリントアウトしておいてあげるよ。おじさんはいつもここにいるから、気が向いたときにいつでもいらっしゃい」


「うん。ありがとう、おじさん!」


 彼はほくほくとして家へ帰っていった。


 そして次の日も、また次の日も――


 シュンくんは足しげくおじさんのもとへとかよった。


「シュンくん、君も絵を描いてみないかい? 絶対に才能があるとおじさんは思うんだ」


「え、そうかな……? でも、おじさんがそう言うのなら……」


「予備の端末がもうひとつあるから、ちょっとやってみようか?」


「うん!」


 こうして彼は自分でも絵を描き始めた。


「アプリは最初ならこれが使いやすいよ」


「ハイビスカスペイントっていうのか~」


「レイヤーっていうのはね」


「ふむふむ」


「合成モードは」


「すごいや!」


 おじさんは絵のことならなんでも知っていた。


 数か月程度でシュンくんは、お絵描きの基礎的な知識やアプリの使い方、そして小学生とは思えないレベルの画力を手に入れるにいたった。


「これだけできればもう、おじさんが君に教えることはないよ。シュンくん、これからも好きなだけ絵を描いてね」


「ありがとう、おじさん! おじさんに出会えて本当によかったよ!」


 おじさんの願いどおり、それからも彼は取りつかれたように絵を描き続けた。


 そして30年後――


「うわぁ! 最新アニメのキャラクターイラストだ!」


「君も絵が好きなのかい? おじさんはね、君みたいなお子さんに絵を描いて楽しませるのが、だあ~い好きなのさぁ~」


(終わり)

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お絵描きおじさん 朽木桜斎(くちき おうさい) @kuchiki-ohsai

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