エピローグ
epilog
今回の事件では、子どもを助けるために必死になる愛染の隠された一面を見ることができた。
そんなこともあって、私の彼女に対する心証がだいぶ変わった。
それで、杉浦刑事のメッセージを伝えるくらいのことは、やってやろうかと思ってしまった。
私はしばらく逡巡してから愛染のケータイに電話をかけた。
愛染は2度目のコールで電話をとった。
「清水君かい?」
愛染は秘書にスケジュールでも問うみたいに言った。
「今度はどんな事件だい?」
「おいおい、勝手に人をワトソン役に仕立てないでくれよ」
私は憮然として言った。
「刑事の杉浦さんから電話があったんだ。情報提供をしてくれたお陰で事件が早期に解決できたと喜んでいたよ。捜査本部一同心から感謝しているそうだ。――杉浦さん、それを伝えるために、君に何度も電話したそうだよ。どうして出ないんだよ?」
「電話は嫌いだ」
愛染はきっぱりと言った。
「大学関係者や研究者からのものは仕事上出ないわけにはいかないからガマンして話をするけれど、それ以外の人からの電話は出ないことにしている」
私はあきれて言った。
「大学関係者や研究者でなくとも、大事な電話をかけてくることがあるだろう。身内が事故に巻きこまれた時とか」
「僕に身内なんていない」
愛染は怒ったような口調で言った。
「親戚がいないわけじゃないが、身内と呼べるような人はいない。それに、誰彼かまわず電話に出るほど暇人じゃない」
私も電話嫌いだが、ここまで意固地ではない。
私は苦笑して言った。
「しかし、今回は君のほうから警察にアプローチしたんだぞ――私を介してだが――。結果の報告くらい聞いてあげるべきだろう?」
「君には話したんだろう?」
愛染はぶっきら棒に言った。
「君が聞いていればそれで十分だ。僕は子どもが無事に保護されたということだけわかればいいんだ」
「ふうん、君らしくなく謙虚だね」
と私は言った。彼女には何度となく小馬鹿にされていたのだから、たまにはこれくらいの皮肉は言ってやらなければ不公平というものだ。
「もっとも私も電話は好きじゃないけれどね。顔が見えない相手と話をするのは、どうも気持ちが悪い」
「僕は電話が苦手というわけではない」
愛染は皮肉っぽく言った。
「価値のない通話で時間を浪費したくないだけだ。君は自分の欠点や失敗などを他人に指摘されるのを常に恐れているから、電話が苦手なんだ。顔が見えない電話では心の準備がしにくいからね」
図星だった。図星であったがゆえに、私は強く否定した。
「そ、そんなこと、あるものか。他人の批判をいちいち気にしていたら研究者も教師もやってられないよ」
「そうかね?」
電話の向こうで愛染がにやりと笑ったのが見えるようだった。
「それはよかった。じゃあ、君が先月『民俗信仰』に発表した論文の問題点を、この電話で指摘しても大丈夫だね。――まずは総論のところなんだが……」
やはり愛染は、この世でもっとも電話をしたくない相手だ。
〈了〉
8㎏は重すぎる——隠し神の陥穽と耳の良い探偵 ZZ・倶舎那 @ZZ-kushana
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