泥術異世界サバイバル!~使える魔法は泥の術だけ!?水が無いと使えない俺がここまで生きてこられた理由~

電子サキュバスショコラ・ケオスリャー

泥術師、乾いた大地を行く



 ──泥がある限り、俺は死なない。

 でもそれは、水がある限り、って話だ。


 泥術は、土と水が混ざっていなければ発動しない。

 どちらかが欠ければ、ただの無力な人間だ。

 この灼けた岩地では――俺がそう。


「……どこだよここ。マジで地獄か?」


 足元には、ひび割れた砂岩。

 空には雲ひとつなく、太陽だけが無遠慮に照りつける。


 風は熱を孕み、息をするだけで体力を奪っていく。

 身体の奥がカラッカラに乾いていく感覚――慣れたつもりでも、やっぱまだまだキツい。


 まずは水だ。とにかく水を探す。

 戦うでも、隠れるでも、魔法を使うでもない。生きるために。


 だから俺は歩く。

 この不毛なドッカイホウのどこかにある、わずかな水場を求めて。


 数日前の低湿地帯は既に干上がった。

 以前に降った恵みの雨が作った奇跡の……それこそオアシスだった。

 もう、あそこに頼ることはできない。


 背中の水袋は、あと一口分。

 使えば術が撃てる。でも飲まなければ、俺が死ぬ。


 ……どっちにしても、詰みは近い。


 ぼんやり考えながら、崖の影に腰を下ろす。

 靴底が焼けそうな熱さだ。昼間の休息は生命線。足が使えなければ野垂れ死に確定だ。移動と休息のバランスを見誤っても死の刃が掠めていく。

 精神も肉体もすり減っていた。


 ──そのときだった。


 ぴちょん。


 音が、した。

 空気を裂くような鋭さではない。

 小さな、水音。


「……!」


 俺は飛び起き、音のした方へ向かう。

 この大地で水音なんてあり得ない。

 だとすれば――誰かが、水を持ってる?


 足音を殺し、崖をまわりこむ。

 手には、わずかに残る泥術の残滓。

 敵意があれば撃つ。それだけは決めていた。


 だが、そこにあったのは――。

 冷えた灰色の火の跡と、わずかながら底面に水の照りを残したカップの影。


 誰かが、ここにいた。

 さっきまで。


「……マジかよ」


 口端がわずかに緩む。けれど長い乾きと疲労のせいで、笑顔にはなりきらなかった。

 ひとりごちた声が、岩に吸い込まれていく。


 火の跡をじっと見つめる。

 まだぬくもりの残る小石の上に腰を下ろした。


 ──誰かがいる。

 それだけで、この焦土に少しだけ色が戻ったような気がした。


 また歩き出す前に、ちょっとだけ、休んでもバチは当たらないだろう。


 そう、これは。

 俺が、誰にも頼らず、誰にも頼られず、それでも生き残った記録のひとつだ。


 ……そして、もし水があるなら。

 きっと泥もある。


 ──続く?

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