いつもいつまでも

塩焼きそば @SAL所属

曇り空

《風の音》


「おっす……ひ、久しぶり。二年ぶりやっけ? ……なんか久しぶりに会っとんのに、そんな感じせんね」


「えっと……あの、えー、その……うん。この二年間のことをさ、話そうかと思っとったんやけど、忙しかったし、ほんとにバタバタしとったけん、あんまり覚えとらんのよね。……何しとったんやろうね、はは……。あの……ねぇ、何か言ってよ」


「今日はさ、言いたいこと……うーん、違うなぁ。言わんとなぁって思っとったことと、私が伝えたいことと……話しにきた。まあ、そんな感じやけん、とりあえず聞いとってよ」


「えっとね……まず……二年も逃げててごめん。返事せんとって思っとったんやけど、何というか忙しいしって言い訳して、ずっと避けとった。本当ひどいよね……何でこんな女好きになったん? いや、ごめん。どう考えても私が悪いのにね。怒っとったやろ?……うん、ごめんなさい。えっと……それで返事なんやけどさ、あ……今更なのはわかっとるんよ? でも、一応ちゃんと言わんとなって思って。もういらんかもしれんけど、聞いとって。あ、待って。その前にこれ! 吸っとるタバコこれで合っとるよね? 今日コンビニで目に入ったけん買ってみた。一本だけ吸ってみていい? 吸い方は知っとうよ、ずっと見とったし」


《ライターの着火音》

《タバコを吸う音》


「え、不味い……臭いし。ようこんなん吸いよるね。でもなんか懐かしいから、嫌じゃない……かも。……よし、言う!」


《深呼吸》


「ごめん! 結婚はできん!」


「……はぁ、嫌いじゃないよ。一緒におって楽しいし、楽やなって思うことも多かったし……でも、結婚はできん……ごめん。だって、絶えられる気がせんもん。私、そんなに強くないからさ……ねぇ、どうして何も言わんの? 怒ったり文句言ったりしてもいいんよ? いや、二年も逃げてて、会いに来んかった私が言えたことではないのはわかっとうけど……それでも無反応ってのは、ちょっと寂しいというか……はぁ、まあいいんだけどさ」


《タバコを吸う音》


「私が今日会いに来とうのはさ、ちゃんとけじめつけんとって思ったからなんやけど、呆れとうかもしれんし、幻滅させとうかもしれんけど、最後まで聞いとってほしい……お願い。じゃないと、前に進めんよね……お互いにさ」


「プロポーズしてくれたことは本当に嬉しい……、多分この先そういう機会はもうないと思う。ほら、私昔から全然モテんやん? ガサツだしめんどくさいとこ多いしさ。……でも、やっぱり耐えられんかったと思う」


「だってさ……この歳で未亡人なんて、私はやだよ」


「会いたいとか思っても、会えんし……一緒にどこか出掛けたいって思ってもおらんやん……。ご飯の時も寝る時も、絶対泣くし……。あはは……そうなるなら、あの日、返事せんで逃げてよかったのかもしれんね。……ねぇ、なんか言ってよ」


《鼻を啜る音》


「こんなこと言わせんでよ……なんで振った私が泣かんといけんのよ」


「あの日の帰り……なんよね? あの日の夜中、連絡きて事故のこと知って、怖くなってずっと逃げとった。……受け入れたくなかったんやろうね、もしかしたら自分のせいって思うのも怖かった。はぁ……どこまでも最低やね、私。あー、ほんと何しよったんやろ」


《ため息》


「こうして二年経っても、全然前に進めんし、忘れることもできんし、お墓の前でこんなに泣いとう女見たら、皆びっくりするやろね……。私ひとりにこんな思いさせんでよ……またいつもみたいに飲みに誘ってよ、どこでもいいからさ。……朝まで電話したりしようよ」


「はぁ、言わんとなって思っとったのは、まあ……そういうこと。後半、文句みたいになっとったけど、嘘じゃないし、許して。それともう一つ、私が伝えたいこと……なんやけどさ。その……ここに来るのはっていうか、こうして会いに来るのは今日で最後……、うん、最初で最後ってやつ。薄情なんはわかっとうよ? でも、そうでもせんと話すことなくなってしまいそうやし……私がさ、いつかそっちに行った時にさ、直接たくさん話したいから。ちゃんと顔見て、話したい……。『あなたの分まで精一杯生きる』とか、そんな格好いいこと言えんけど、あんたみたいに格好良く生きていこうとは思ってる」


「だから、……絶対に迎えに来て。そして、たくさん褒めて」


「だって、あんたは数年の片思いって言っとったけど、私はこれから何十年も片思いするんやから、それくらいしてくれてもいいと思う。……だから、その時が来るまで、私も会いに来ない、絶対来んから……」


《鼻を啜る音》


「……はぁ」


「うん、言いたいことはまだまだあるんやけど、これ以上語っとったら、余計なことまで言いそうやし、帰る」


「……じゃ」


「さよなら」


「……いや、待って。なんか違う、うーん。あぁ、そうね……こっちやね」


「じゃ、またね」

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