たかが、鷹の分際で…

αβーアルファベーター

たかが鷹の分際で…




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たかが、鷹の分際で…


 最初は、ただの珍事だった。

 東京湾岸の高層ビル群で、なぜか鷹が群れを成して旋回している――その程度のニュースだ。専門家は「渡りの異常」「気候変動の影響」と軽く分析し、ワイドショーはそれをバックにタレントが笑いながらコメントした。


 しかし、一週間後。

 湾岸のクレーンにとまっていた鷹たちは、まるで合図を受けたかのように一斉に飛び立った。次に報告されたのは、新宿駅南口で通勤客数十人が同時に失明した事件。目をやられた全員が「空から、何か鋭いものが突き刺さった」と証言した。監視カメラには、鷹が高速で人の顔面をかすめる映像が映っていた。


 政府は防鳥ネットの設置を急がせたが、その効果はゼロだった。鷹たちはビル風を読み、ネットの隙間を縫って急降下する。翌週には死者が出た。頸動脈を裂かれた会社員、首筋に食い込んだ鉤爪を抜けず絶命した学生。

 やがて各都市で同時多発的に発生するようになり、首都圏は完全に麻痺した。


 異変の核心は、三ヶ月後に明らかになる。

 生け捕りに成功した一羽の鷹を、東京大学獣医学部が調べた結果、その脳には人間に匹敵する大脳新皮質の異常発達があった。さらに、足に巻かれた黒い金属製のリングからは、未知の電波信号が発せられていた。

 鷹は、ただの動物ではなかった。

 彼らは組織的で、計画的で、そして――意志を持っていた。


 その意志は、ある日、音声として現れる。

 全ての主要テレビ局とラジオをジャックし、低く、掠れた男の声が響いた。


> 「人間よ。お前たちは、我らを“ただの鳥”と呼び、見下してきた。だが我らは見ていた。空から、お前たちの戦争も、裏切りも、欲望も。

我らは決めた。地上は、我らが統べる。」




 その瞬間、空は暗くなった。

 何百万という鷹が、日本列島の空を覆い、太陽光を奪ったのだ。電力網は太陽光発電を失い、都市は停電。物資輸送のトラックは空襲のような急降下攻撃で壊滅し、政府は首都を放棄。残った人間は地下やトンネルに潜み、外に出る者は皆、目をえぐられて死んだ。


 反撃は試みられた。

 戦闘機、地対空ミサイル、無人ドローン――しかし鷹は全てをかわした。時速300キロを超える急降下に加え、超音波で味方同士が瞬時に連携し、人間の予測を裏切る奇襲を仕掛ける。

 やがて、自衛隊の残党も空から消えた。


 都市は、無人となった。

 高層ビルの屋上には鷹の巣が築かれ、交差点の信号機には死んだ人間の骨がぶら下がる。

 そして、元・国会議事堂の尖塔にとまった巨大な鷹が、再び声を発した。


> 「たかが、鷹の分際で…と笑った人間たちよ。

その言葉、そっくり返そう。

たかが人間の分際で、空を支配できると思うな。」




 その日から、青空は人類にとって禁忌となった。

 空を見上げた瞬間、そこには必ず、黄金色の瞳がこちらを見下ろしていた。


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たかが、鷹の分際で… αβーアルファベーター @alphado

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