【青】の魔人
蠱毒 暦
無題 【◾️】+【赤】+【緑】+【青】+【◾️◾️】
ん……おや、お帰り。その様子から察するに今回もダメだったんだね。
ふむ。情熱を司る【赤】も、成長を司る【緑】も…どうやら君には合わなかったらしい。
そう怒らないでくれ。『三原色の魔女』である私が、提示出来る色はこれで最後だ。
【青】は誠実を司る。精々…【無色】の君が、この色に適合し、人生を謳歌する事を祈っているよ。
それと、今回行く世界で、平凡な日常生活を送りたいなら『水色の魔女』との接触は避けるべきだよって…あーあ。行っちゃった。
………
情熱は過ぎれば、強要となり怒りへと転じ、成長の果ては他者との比較、競争…嫉妬へと変わる。
【赤】も【緑】も…僕には合わなかった。
前者は最終的に全世界の住人に嫌われ、罪を被せられた末に公開処刑。後者は…終わらない成長を自ら拒絶し、自殺した。
もう後がない。
いつまでも【無色】でいたくない僕は…もう【青】に染まるしかないんだ。
………
……
…
誠実に生きる。
つまり、真面目に生きて…真面目に死ぬ。決められたルールを遵守し、最後までやればいい。
成績トップは当たり前。
嘘は絶対につかない。やると決めた事は責任を持ってやり切る。自分に弱音は吐かない。
学業も先輩、後輩との付き合い方も、本やネットで調べた理想の通りに演じ分ける。常にルーティーンで生きることを心がけろ。
朝6時に起きたら歯を磨き、朝ごはんをちゃんと食べて早めに学校に行く。授業を真面目に受けて授業終わりは、必ず先生に質問をしよう。
昼は栄養バランスを取れてかつ、食べ過ぎて眠くならない程度の量で済ませ、午後の授業に望む。ここでも先生への質問を忘れない。
掃除は机拭きからロッカーの隙間まで丁寧に行い、放課後は曜日ごとに振り分けた部活動を。学校が閉鎖される10分前まで行い家に帰宅。
夜ごはんを食べ、お風呂に入った後は今日やった授業の予習、そして復習をして明日の準備をしてから、21時半に就寝。明日に備える。
それを繰り返す。繰り返しさえすれば……
「お、おぇぇぇぇ…」
っ、たったの12年程度で耐えられなくなってトイレで吐いてるようじゃダメだ…心を強く持て。もっと誠実に。誠実に生きなきゃ。
【無色】は嫌。何色にもなれないのは…もう嫌なんだ。
「そうだ。誠実にいられるために…『戒律』を定めて、もっと厳しくすればいいんだ。」
………
……
…
La La La…La La La La… La La La La La♪
可愛い
カッコいい
ぜんぶ、ぜーんぶ。とまってる。
……
…
それから6年が経過して、僕は高校生になった。夏なのに今日は雪が降っている。電車が遅れたら大変だ。余裕を持って学校にいかないと。
【『戒律』其ノ100…いついかなる時でも、相手の顔を見て、笑顔で挨拶をする事が出来なければ、ここで死ね。】
「あっ、おはようございます!」
………
【『戒律』其ノ121…返事を期待するな。そんなことで気分を害するようなら、ここで死ね。】
「おはようございます!」
………
「おはようございます!」
………
おはようございます!おはようございます!おはようございます!おはようございます!おはようございます!おはようございます!おはようございます!おはようございます!………
……
…
こうして駅に到着したのはいいけど、いつまで経っても電車が来ない。駅員さんも僕を無視して話を聞いてくれなかった。
今日は、季節外れの雪が降ってるもんだから、忙しいのだろう。
「走るかぁ。」
遅延証明書も手に入れた、家を早く出たお陰で、何とか朝会前に間に合いそうだ。
「……?」
【『戒律』其ノ33…たとえ急いでいようと、道端で困っている人がいれば、当たり前の様に手助けをしろ。出来なきゃここで死ね。】
僕は足を止める。
「おはようございます!何かお困りみたいですけど…」
「La La La…ぇ?」
後ろから突然声をかけたからか、白いワンピースを着ている水色髪の少女は驚き、そのまま駆け出して行ってしまった。
「待っ…!」
【『戒律』其ノ34…もし、自分の行動が相手に迷惑だと思われたら、これ以上余計な詮索はせずに身を引け。出来なければここで死ね。】
【『戒律』其ノ7…朝は寄り道せず学校にすら行けない親不孝者の怠惰な奴ならここで死ね。】
「…そうだね。今は…学校行かなくちゃだ。」
……
高校に到着して教室に入ると、僕の事を模範生だと褒める担任の先生も、表向きでは僕と一緒に仲良く学校生活を満喫してくれているが、裏では何処か僕の事を不気味がっているように見えたクラスメイト達もいなかった。
「電気も消えて…」
【『戒律』其ノ30…教室に僕しかいない場合、学校側で出る光熱費に配慮して、あえて電気をつけないくらいの気遣いが出来なければ、ここで死ね。】
「まあ、いいか。」
僕は最前列の真ん中にある席に座り、テキパキと今日使う教材を入れて、今日やる内容の復習をして待つ。
…チッ…チッ…チッ…ガタガタガタガタ……チッ…チッ…チッ……
黒板の上にある時計の針が動く音と窓から微かに吹雪の音が聞こえる中、今日の授業の復習を終えた僕は教科書を閉じる。
【『戒律』其ノ11…授業が始まってから20分が経過しても教員が来なかったら、クラスメイト達の意見も関係なく、進んで職員室へ向かい判断を仰げ。出来なきゃここで死ね。】
「職員室に行こう。」
僕は即断して誰もいない教室を出て、職員室の前にやって来た。
トントントン……
「失礼します。」
中に入ると電気はおろか、出勤した痕跡すらなくて、ようやっと僕は気がついた。
「あはは…今日、学校…休みだったのか。」
我ながら恥ずかしくなり、丁寧に扉を閉める。よくよく考えるとここに来る道中、他の教室から物音すらしなかったのがいい証拠。
「学校閉鎖の連絡…聞いてなかったんだけどなぁ。」
僕はポケットからスマホを取り出して、学校からの連絡を確認してみるが…
「あれ。」
何故か圏外になっていて、メールを開く事が出来なかった。
……
La La La…La La La La…La La La La La♪
カワイイ
カッコイイ
ぜんぶ、ぜーんぶ…とまってる
とまっていたら かわらない
かわらなければ ずっとあいせる
あいされるなら みんなしあわせ
わたしはひとり。ひとりはわたし
いらないものは…こわしちゃえ
ぜんぶ、ぜーんぶ。わたしのものっ
だけどなんだか さむい さむいよ
………………。
「…なんでいきてる?」
わからない。
「…どうしていきてる?」
ワカラナイ。
「コワイ……ナンデ?」
「こんにちは!朝会った子だよね!!さっきは驚かせてしまってごめん…僕の名前は…」
「…ッ。」
なんでもいいや。
いらないものは…こわしちゃえ
みんな、みーんな。
———わたしのもの!!!!
……
…
一瞬で、視界が真っ白になった。
【『戒律』其ノ159…暴力を振るわれても、対話での解決を諦める腰抜けはここで死ね。】
「————!!」
声が出ない。違う…声は出してる。吹雪の音でかき消されているんだ。そんな中…懐かしくもあり、思い出したくもない幻聴が聞こえた。
『なぁに苦戦してやがる。簡単だろ?力で屈服させればいいだけだ。お前はそういう奴だろ。なぁ?オイ?』
【赤】——その情熱に焼き尽くされた
単純明快で楽なのは否定しない。けど力だけじゃ…その場しのぎにしかならない。必ずその分の報いが跳ね返ってくる。
『では他者を顧みずに前進し、進化し続ける事を否定したキミは、ここで何を為す?』
【緑】——成長の果てに自分以外を排した
【無色】から、変わりたいって気持ちに嘘偽りはない…けど、これ以上…誰かを犠牲にしたり、陥れたりするのはもう嫌だ。
La La La…La La La La…
「…っ、う。」
その場にいられずに、一歩。また一歩と後ろへ下がっていく。
【『戒律』其ノ5…どんな苦境に陥ろうが常に笑顔を振る舞う事を忘れる馬鹿はここで死ね。】
【『戒律』其ノ480…諦める事や妥協は決して許されない。半端者はここで死ね。】
【『戒律』其ノ997…常に最善手を選び、行動しろ。でなきゃここで死ね。】
『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』『戒律』
【青】———誠実に生きる為だけに、誰にも理解出来ないような『戒律』を作り、他者に寄り添おうとした
【『戒律』其ノ零…常に人の事を思いやる事だけを考え、自分の感情や意見は後回し。やせ我慢すら出来なければ、ここで死ね。】
…………………………………ごめんなさい。
確かに僕は【無色】でいたくなかったからこの修羅の道を選んだ…けど、流石にもう疲れたんだ。
毎晩、鏡の前で笑顔を確認したり、忘れないように1000以上ある『戒律』を復唱したりするのも含めて。
第一、自分を押し殺して、いつ心が折れてもおかしくない状態で生を謳歌することを、人生とは呼ばない。
——それを、地獄って呼ぶんだよ?
とはいえ、途中で投げ捨てたのは僕の力量不足なのは事実。だから今は『戒律』を忘れて、いくらでも
頑張って…見つけるから。僕の本当の【色】を。後戻りなんてしないし、絶対に諦めない。妥協なんてするもんか。
———それが
『三原色の魔女』から借りた【青】が混ざり、溶け合って…また【無色】へと還った。
……
La La La…La La La La…La La La La La……
カワイイ
「可愛くないよ。」
カッコイイ
「カッコ良くも…ない。」
ぜんぶ、ぜーんぶ…とまってよ。
「それは嫌だ。止まったらそこまでだから。」
とまっていたら かわらない。
「僕は絶対に変わる…変わってみせるよ。」
か、かわらなければ ずっとあいせるんだよ?
「君達の同胞を殺してしまった…僕に愛される価値なんてない。」
あいされるなら みんなしあわせでしょ!?
「違う。それを決めるのは君じゃない!!!」
っ…わたしはひとり。ひとりはわたし
「人間も魔女も…魔人だって。1人じゃ、生きてはいけないんだ。断言するよ…必ず何処かで破綻するって。」
いらないものは…こわしたい
「力で無理やり手に入れて残るモノなんて…ちっぽけな達成感と、それを軽く超える程の奪われた者達の憎悪だけだ。」
ぜんぶ、ぜーんぶ。わたしの…っ。
「ッ!?」
きづくと…おとこに、だきしめられていた。
なに…これ?きもちわるい…けど。
「…………。」
ふしぎとつめたくない。さむくない。むしろ、やさしくて…あったかくて。
「?オマエ…ナンデ、ナイテ…ソウカ。」
おまえが…なんだ。ほかはしらないけど……
つめたいわたしに…ぬくもりをくれた。
そんなおまえを。
「わたしは、ゆるすよ。」
「…ぁ。」
バシャァ———!!!!
どろどろどろどろ…とろけてまざって……
あ。なんだ…そこにいたんだ。
………
……
…
かつて…様々な【色】を司る魔女が世界を席巻し、支配していたがある日、『無色の魔人』と呼ばれた存在が現れ、絶滅寸前まで追い込まれたのは、ごく最近のこと。
滅ぼされかけた理由が、何にもなれない【無色】な人生を魔女が持つ【色】を吸収することで、少しでも華やかにしたかったってだけなのが…おや…随分と早かったね。
『水色の魔女』は…あぁ。溶けちゃったか。普通、1色しか持たない魔女は【無色】の君と相対するだけで、溶けて、吸収されちゃうから…寧ろ、よく耐えた方か。
ふむ。情熱を司る【赤】も、成長を司る【緑】も、誠実を司る【青】ですら…どうやら、君を染め上げる事は叶わなかったようだ。
そうなると、【色】の殆どを失った搾りカスの『三原色の魔女』……私を、吸収するかい?
んえっ?しないの…?てっきりするかと思って君の為に、命乞いの準備をしていたのだけど…
はい?同行しろ??唐突すぎて空いた口が塞がらないよ……でも「嫌だね。」と言えば、他の魔女と同様の末路を辿りそうだ。
…………冗談さ。そんな目で見ないでくれ。君にそんなつもりがなかった事くらい、知ってるとも。
他の魔女は勿論、私が貸した【赤】、【緑】、【青】……【水色】すら吸収して遂に【無色】である自らの境遇を認めて生きていく決心でもついたのかな?それは結構、結構。
え?違う??……まあいいさ。それじゃあ契約に移ろうか。はい、そこ面倒とか言わない!
分かってないなぁ君。これから長い付き合いになりそうだから、こういうのはしっかりしておかなきゃだろう?
それが同行する条件…っ判断が早い!けど即答するのは嫌いじゃない。ふむ…前よりも、いい笑顔をするようになったじゃないか…痛っ!?これ一応、褒めたつもりだったんだけど……
はぁ。じゃあ仕切り直して…こほんっ。改めてまして、私は『三原色の魔女』の…違うな。君に【色】を吸収されたから、もうそうやって名乗れないか。うーーーん。よし…決めた。
君が『無色の魔人』なら、私は『白の魔女』でいこう。私の名はパ…改め、ヴァイスさ。契約に従い、君の本当の【色】とやらを探す苦難の旅路に付き合ってあげよう。
『幸せの青い鳥』みたいなオチになりそうだけど、それもまた一興か。それじゃあ、これからも宜しく頼むよ…カラレス。
了
【青】の魔人 蠱毒 暦 @yamayama18
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