ハードな設定と、切なくも優しい読後感
- ★★★ Excellent!!!
現在、禁忌とされるヒトクローン。主人公の穂多美は、伯母に頼まれ訪れた山奥の研究施設で、ヒトクローンの少年シアンと出会います。シアンの願いをかなえるために、彼の研究所からの脱走に手を貸した穂多美。けれど、現実はそんなに甘くなく……。
ふんわりと優しい空気に包まれた物語ですが、内容はかなり考えさせられるSF恋愛ストーリーです。昔どこかで「クローンとは、生まれた時期に時差がある双子」と聞いたことがあるのですが、これに「双子の感覚共有」の設定が絡み、事件に大きくかかわってくる物語となっています。クローンが抱いた気持ち、元となった人間の抱いた気持ち。それが互いに共鳴し合うことで生まれてしまった悲劇。けれどそこから、思いやることで良い方向に進もうとする人間模様が美しいです。
根幹の問題に関わっていない時夫さんの存在が、緊迫した空気をほっこりさせてくれます。というか、登場するとその場の雰囲気を掻っ攫っていく、美味しい人物です。