君の隣に僕が生きてる

咲良 綾

ep0.プロローグ

 庭にしゃがんだ少年は、動かなくなったせみを見ていた。

 数日前までうるさかった鳴き声が、そういえば静かだ。

 乾いた砂に水滴が落ち、ぽつりと黒ずんだシミが浮かぶ。

 少年はじっとりと汗ばんだ額を拭った。


「シアン、そんなところで何をしている」


 背後から、少し怒ったような声がかかる。

 少年が振り向くと、長身の青年が庭に続くガラス戸を開け、室内から手招きしていた。


「この暑さは体に毒だ、早く入れ。少し涼んだら、今日の処置をするぞ」

「何のために?」

「え?」


 青年は面食らったような顔をする。少年はじっと青年の目を見た。


「何のために僕は涼しくして、面倒な処置をするの?」

「それは……お前が生きるためだろう」

「ただ生きるだけの命なんて、いらないんだけど」


 少年は再び地面の蝉に視線を落とした。


「どうせ短い命なら、思う存分鳴きたいよ」

「シアン」


 青年は顔を歪めた。


「俺たちのエゴで、不自由な思いをさせてすまない。でも俺はまだ、お前の命を諦めてないんだ」


 青年は庭に下り、少年の腕を引いて立たせると、ハンカチを出してその額の汗を拭いた。


「ほら、痛みが強くなってるだろう。行くぞ」

鎖衣さいも痛い?」

「お前ほどじゃない」


 少年は木々の間から空を仰いだ。

 あの雲は、どこまで流れていくのだろう。それとも、どこかへ行きつく前に消えてしまうのだろうか。


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