おにぎり

はな

おにぎり

他の家の“お母さん”が握ったおにぎりが苦手だ。

別に汚いと思っているとか、潔癖症だからというわけではない。


おにぎり以外、例えばたまご焼きとかも、苦手だけれど、中でもおにぎりには“重さ”を感じるのだ。


愛情とか真心とか、そういうものを超えて、“その家の生活”そのものが込められているように感じてしまう。


だから、小学生のとき遠足にコンビニおにぎりを持ってくるボクに、宏樹のお母さんが『翔君の分』といって作ってくれた、おにぎり入りの弁当も受け取りを辞退したかった。


けれど、親友の(その母の)好意を断ることが出来ず、冷たいお茶で流し込むように完食した。

せっかくの優しさをこんな形で消費してしまったことへの申し訳なさと、どうしても苦手なおにぎりを完食したストレスで、遠足の途中で吐いてしまった。


他人の好意を素直に受け取れなかった自分へのバツだと思った。


それ以降、他人からおにぎりをもらうような場面(なかなか無いけれど)に出くわさないように、自分で弁当を作っている。


両親は共働きで、母は夜勤もある。

もともと料理が苦手なこともあり、我が家は外食やデリバリー、冷凍食品をフル活用していた。


両親のやり方はとても合理的で、ボクにも不満はなかった。

母が無理に頑張って料理をして失敗作を食べることも無いし、母だって仕事で疲れた体を休めることができる。


自分で弁当を作るようになってから、ボクの料理の腕はどんどん上がっていき、我が家の料理担当はボクになった。


同じおにぎりでも自分で握ったものやコンビニののものなら食べられる、という謎のおにぎりハンデを抱えたボクは、大学入学と同時に個人経営の洋食屋でバイトを始めた。


野菜を切ったり、ハンバーグのたねをこねたり、調理補助中心の業務内容は自分にとても合っている、と感じる。

店長の味付けや火加減を見て、自宅で真似してみるのも楽しかった。


バイトを始めて気がついたことがある。

店長は従業員に賄いを作ってくれるのだが、一度オムライス用のチキンライスをおにぎりにしてくれたことがあった。


いつもなら他人が握ったおにぎりに深い拒絶の気持ちが湧き上がってくるのに、それがないのだ。

初めはプロが作ったものと素人が作ったものへの自分の認識の違いから来るのか、と考えたが、恐らくそうではない。


宏樹のお母さんのおにぎりと店長のおにぎり、そこにある違いを考えて、気がついたのは、


『その人の生活などのバックグラウンドが頭に浮かぶおにぎりが苦手なのだ。』


ということだ。


こんな風に考えて具材を選んだんだろうな、とか、あの台所で作ったんだな、愛情込めて、とか。

そういうふうに想像できてしまうおにぎりが苦手。


コンビニや店長のおにぎりにはソレがない。

もちろん、店長のおにぎりには従業員においしく食べてもらおうという真心は入っていると思う。

でもそれ以上の”何か”は入っていない。


だから食べられる。


高校生の時、初めての彼女に


「今度、私がお弁当作ってきてあげる。」


と言われたのを、本気で断ってしまい、その後気まずくなり破局する、ということがあった。


当時は、多少無理をしてでも弁当を作って貰えば丸く収まったのに、と自己嫌悪に陥ったが、自分が何故ちょっと近しい他人が作ったおにぎりが苦手なのかを知った今、あれは正しい判断だったと断言できる。


彼女に

”彼氏が自分が作った弁当を食べて体調不良になった”

というトラウマを植え付けずに済んだのだから、英断だった。


ただ、こうなってくると、ボクは将来、料理好きな女性とは結婚出来ない。

自分で作ったものなら大丈夫な点を考えると、料理はボクが担当する生活が望ましいのだが、最近また気がついたことがある。


おにぎりが苦手ということに注目して生きてきたが、おにぎりを重いと感じるように、ボクは他人から一定以上の感情を向けられる事を重いと感じてしまうのだ。


これは大問題だ。

一生独身、という可能性が大いにある。

一人っ子のボクにとってそれは許されないことのような気がしてしまう。


考えれば考えるほど、今後の自分の人生に危機感を覚える。


けれど、いくら考えたところで解決策など見つからない。

これからも他人の感情が詰まったおにぎりが苦手なままだろう。

ボクは自分で握ったおにぎりを食べて生きて行く。


無理に誰かの優しさを飲み込まなくても、ボクは生きていける。

そう思うと心が少しだけ軽くなった。


そして、こんなことを考えるボクは、やはり、あの両親の子供なのだ。

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おにぎり はな @hana0703_hachimitsu

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