第一章 最終話 静寂の頁(ページ)
火の間事件の翌日、図書館内は、いつもより深い沈黙に包まれていた。
焼け焦げた石壁にはまだ煤がこびりついており、焦げた魔導書の残骸からは、仄かに魔力の残滓が漂っている。
その中で、ミヤトラは一人、ゆっくりと歩いていた。
視線はすでに、真実の先へと向いていた。
背後から足音がする。
アトリーが、手に一冊の書を持って近づいてきた。
「……読み応えのある事件だったわね。密室、焼死、呪い、禁書の自壊──どれも魅力的な仕掛けだった」
「だが、犯人は生きて逃げた。俺の勝利ってわけじゃない」
ミヤトラがそう言うと、アトリーは小さく肩をすくめる。
「ふふ、勝ち負けなんてどうでもいいのよ。真実に辿り着いた。それだけで、十分でしょ?」
彼女は本を閉じるように、静かに言った。
「……次の頁へ、進みましょうか」
⸻
その後──
地下迷宮の一角、魔力の流れる古代回廊。
そこに、一人の青年がいた。
髪は短く刈られ、顔には薄い火傷の痕。だが、その目には、強烈な意志と執念が宿っていた。
──ハイ。
名を偽り、姿を変え、彼は生き延びた。
肩には、黒く焦げた装丁の古書が抱えられている。
《アーク・インフェルノ》。
世界を滅ぼすとさえ言われた、意志を持つ禁書。
「君は、僕を選んだ。だから僕は、君に応える」
静かにそう呟き、彼は再び歩き出す。
かつての高位貴族としての栄光を捨て、死者として名を葬り──
今はただ、真なる“魔導の在り方”を求めて進む、亡命者であり、禁書の守人。
彼の背に宿るのは、かつての野心ではない。
それは──この世界の“真理”に触れたいという、純粋すぎるほどの渇望。
そして、遠い未来。
この男の名が、また別の密室事件の現場で囁かれることになるとは──
この時、まだ誰も知らなかった。
⸻
TIPS
• ミヤトラ
事件後、禁書管理局から臨時感謝状が贈られるも、「逃げた犯人を捕まえられなかった」として苦い顔。
現在も火の間跡地で調査を継続中。
• アトリー
次なる事件を求め、既に“次の物語”へ向かう準備を始めている。
図書館の迷路のような廊下で、誰よりも笑顔だったのは、彼女かもしれない。
――そして、物語は幕を下ろす。
舞台の灯りが、ゆっくりと落ちていく。
黒いマントをひるがえし、アトリーが現れる。
その瞳には、どこか満足げな光と、ほんの少しの寂しさが宿っていた。
「……さて、ここまでご覧いただき、ありがとうございました」
彼女は深々とお辞儀をするように、ひとつ頭を下げた。
「密室、焼死、禁書、そして──“死者の逃走劇”。
いかがでしたか? お楽しみいただけたかしら?」
にっこりと笑いながら、くるりと一回転する。
「あなたがどこで気づいたのか、あるいは、最後まで騙されたのか。
そのすべてが、私にとっては愛おしい“反応”なのです」
「でもね。私は、こうも思うの」
彼女は、ゆっくりと歩き出し、あなたに目を向けた。
「真実なんて、案外つまらないものよ。
誰が殺した? どうやって逃げた? なぜ偽装した?
──そのすべてに答えがあったとしても……」
小さく肩をすくめる。
「それよりも、もっと大切なことがあるのではないかしら。
たとえば、“なぜ人は真実を求めるのか”とか──ね」
そしてアトリーは、最後の一冊をそっと開く。
そこには、こう記されていた。
この物語は、ここで一旦、幕を下ろす
「──でも、終わりじゃないわよ?」
アトリーは悪戯っぽく笑った。
「物語は、読み解かれる限り続くの。
あなたが、次の謎を見つけたそのときから──また、始まるのよ」
静かに、手を振る。
「それじゃあ。おやすみなさい、探偵さん。
またどこかで、“事件”の舞台でお会いしましょう──」
カーテンが閉じる。
その余韻だけが、炎のように残っていた。
うみねこのなく頃に、みたいな魔法の世界で密室殺人の推理ものが書きたかったので書きました。誰か読んでください @syoremi
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