主人公は世界を救った英雄の息子です。薔薇色の人生が約束された境遇。しかし、主人公の心は常に曇天のように、常に沈み切っています。周囲は主人公に、父親と同じような才能を期待していますが、彼自身は自分にはそんな才能はないと理解しているのです。父親のことを尊敬しながらも父のようになれない自分への失望。自尊心と自己有用感の欠如は、周囲への苛立ちへと変わります。そして、自分のことが更に嫌いなる無限ループ。彼の不幸は父のような才能がないことではなく、そんな自分を客観視できてしまう頭の良さにこそあるのでしょう。
そんな鬱屈とした日々の中、彼は一人の魔女に出会います。藍色の髪のボクっ娘(大切)魔女と。彼女は言います。
「ボクに君を救わせてくれないかな?」
まだ何者でもない、英雄の息子であるだけの少年と魔女の物語が始まりました。
この小説の特筆すべき点は、主人公ロアの描写にあると思います。彼の一人称視点で物語は進みますが、彼は6歳とは思えない程達観しており、自身と周囲に対しての諦めの感情を持っています。読みながら「諦めるのには早すぎだろう(実際魔女につっこまれています)」と思いながらも、「それだけ賢かったら生き辛かろうな」とも思いました。そんな捻くれたロアが魔女や仲間との出会いで少しずつ変わっていくところが水泥だろ思います。
ただ英雄の息子でしかない彼が、本当の英雄になる姿を共に見守っていきしょう。
父親が勇者という特殊な立場の主人公の歪んだ心情が、細やかな言葉と表現で丁寧に描写されているのがとても良かったです。
主人公ロアは、齢6歳にして、自分の立場を理解し、努力も惜しまず、武術の才能も、ロジカルな思考もある。
言うなれば、かなり老成したギフテッドですが、大人以上に斜に構えていて、何事にも悲観的であるという心のアンバランスさが目立ちました。
ひどい虐めを受けてるだけでもなく、周り、特に家族からは惜しみない愛情を受けている傍からみたらかなり幸せな生活を送れている筈なのに、どこか拭えない不幸感を抱いているのが印象的でした。
なんでもないけど、どこか不安で、何かがつらい、という、誰もが抱く言葉にできない苦痛を上手に表現された良作です!
トルゥーとの訓練を通して、ロアが肉体や能力もそうですが、精神面でどう成長していくのか楽しみです!!