首無し武士に恩返し

夜染 空

首無し武士に恩返し

『首無し武士に恩返し』


佐藤 霊感がある。お調子者で、相方の安岡をビビらせるためにいわく付きの場所に連れてくる。 性別不問


安岡 霊感は無いが途中でみれるようになる。

自分が見えない事象にはとことん興味が無い 性別不問


井納田 とある合戦で命を落とした武士。

自分の首を見つけてもらうためにおどろおどろしく出てくるが中身はおっさん。没年17歳 性別男性


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佐藤:「なぁ、安岡…ここら辺…出るらしいぞ」


安岡:「は?出るって何が?」


佐藤:「だから、幽霊!なんか戦国時代に打首にされた武将が自分の首を探して彷徨ってるらしい…」


安岡:「ふーん……で?」


佐藤:「…で?って、怖くないの?」


安岡:「いや全く。幽霊信じてないし…」


佐藤:「はぁ!?かなりの噂になってる場所だぞ!?流石にビビるだろ!?」


安岡:「ビビるも何も…見えないものを怖がっても仕方ないし…」


佐藤:「…お前は……ん?」


安岡:「…なに?」


佐藤:「いや、変な音が…」


安岡:「音?何も聞こえなけど…」


佐藤:「でも確かにこう…ガサガサって…」


井納田:「オマエタチ…ワタシノクビヲミテナイカ…」


佐藤:「……は?」


安岡:「え、なに?」


井納田:「ミテイナイカ…?」


佐藤:「み、見てない…!知らない!!」


安岡:「は!?ちょっと佐藤、どうしたの?」


佐藤:「(震えながら)なんか、武士の幽霊が首見てないかって…」


安岡:「首?そんなもん…」


井納田:「オマエタチ…ワタシノクビヲシラナイカ…」


佐藤:「また同じこと言ってるっ!」


安岡:「…ねぇ、この石、人の頭に見えるけど…まさかこれじゃないよね?」


佐藤:「…んなすぐに見つかるわけ…!って、ホントだ…なんかそれっぽく見える…」


安岡:「…あのぉ…首ってこれのことですか…?」


井納田:「……ワタシノクビッ!!!!」


佐藤:「びぃぃぃぃぃ!!!」


安岡:「なっさけない声…」


佐藤:「お前は見えてないもんな!すんげぇ勢いで今の石もぎ取って行ったんだぞ!!」


安岡:「あー…すまん。見えてないから知らない。」


佐藤:「薄情者ぉ!!」


-首をつけた武士が冷静に声をかける


井納田:「いやぁ、驚かせて済まなんだ!」


佐藤:「…は?」


井納田:「私は井納田小吉郎(いのうだしょうきちろう)と申す!合戦に駆り出されたは良いがろくな戦果もあげられずに敵に首を落とされてしまってな!以来、私は己の首を探してさまよっていたのだ!いやぁ、助かった!!」


佐藤:「…なんかただのおっさんなんだけど…」


安岡:「害がなくてよかったじゃん」


佐藤:「そうだけど…なんか拍子抜けする…」


井納田:「ところで、お主等はなぜこんな所に?」


佐藤:「…肝試しを…」


井納田:「肝試しとな…!私が子供の頃もやれ曰くのある場所を探しては野宿をしたものだ!」


佐藤:「…おっさん…じゃなくて、井納田さんは、何歳なんですか?」


井納田:「合戦に出たのが17!」


佐藤:「…同い歳」


安岡:「え…幽霊、タメなの?」


井納田:「今の時代は知らんが、私らが生きていた時代は15にもなれば立派な大人扱い…合戦に出て命を落とす友や兄弟を散々見てきた…まぁ、仕方の無いことだ。あの時代は国取りに命をかけてなんぼ!戦果を挙げて武士の誉れとなる事こそが生き様だったのだ!」


佐藤:「…なんか、死んだのに悲しんでないんですね」


安岡:「昔はそーゆー時代だったんだ。戦で死んでも仕方ないって思う人は少なからずいただろうさ」


井納田:「うむ!かく言う私は先程も言ったが、ろくな戦果を挙げれずに死んだ……まぁ、それも良い!騎馬兵の1人を道連れにしたからな!」


佐藤:「敵の兵士を1人でも減らすことは、戦果じゃないんですか?」


井納田:「大きな戦果とは言えない…だが、1人でも敵兵が削れれば、味方にその攻撃が向くことは無い!私の戦果は、これでおしまい!それで良かったのだ!」


佐藤:「…井納田さん」


井納田:「さて、長く話し込んでしまったな…首を見つけてくれてありがとう。何か礼をしたいが…あいにく、私が出来ることは限られていてな…。この土地にいる邪悪なモノから少しの間守ることしか出来そうにない」


佐藤:「…は?邪悪なモノ?」


安岡:「…おっさん、なんだって?」


佐藤:「なんか、良くないモノがいるって…」


井納田:「なんだ、気付かなかったのか?今もそこにいるぞ?私のように首を探して彷徨うモノが。」


佐藤:「…え?」


井納田:「私のように穏やかとは言えない…恨みが強くて怨霊になっている。悪いことは言わん、早々にここから立ち去るのだ」


佐藤:「…わ…わかった…」


安岡:「ちょっと、佐藤?何その震え…大丈夫?」


佐藤:「……だって…井納田さんに言われて気付いたけど…ここ……」


井納田:「うむ…ここは、怨霊の巣だ」


佐藤:「か、帰ろ!早く帰ろう!今すぐ帰ろう!!」


安岡:「えっ!ちょっと引っ張るな!!」


佐藤:「早く早く早くっ!!」


安岡:「…あっ!(転ぶ)」


井納田:「しまった、この地で転ぶのは危ないっ!」


佐藤:「安岡っ!」


安岡:「いったた…引っ張りすぎだよさと……ぅ」


-見えなかったはずの安岡の目の前に怨霊が迫る


佐藤:「安岡っ!!!」


井納田:「ええぃ、仕方ない!お主ら私の後ろに来るのだ!」


佐藤:「えっ…」


井納田:「早くしろっ!」


佐藤:「や、安岡、井納田さんが後ろに来いって!」


安岡:「わ、わかった…」


井納田:「良いか?私が刀を大きく振るう。そしたら全速力でこの場から逃げるのだ!振り返るな!」


安岡:「え、そしたらおっさんは?」


佐藤:「安岡、井納田さんが見えるの!?」


井納田:「今はそんなことを言っている場合では無い!合図したら逃げろ!良いな!?」


佐藤:「…はい!」


安岡:「…わかった!」


井納田:「行くぞ…せいやァァァ!!さぁ!走れ!!」


安岡:「っ!!」


佐藤:「井納田さんっ、ありがとう!」


井納田:「…若者よ、感謝するのは私の方だ。私を見つけてくれて、ありがとう…」


-息を切らして走る2人


佐藤:「…はぁっ、はぁ…もう、いいかな…っ」


安岡:「さすがに、ここまで来れば、大丈夫…でしょ……はぁ、はぁ……」


佐藤:「にしても…なんか濃い時間だったな…」


安岡:「全くだ…幽霊を見るとは思わなかった…」


佐藤:「井納田さん、成仏できるかな…」


安岡:「首見つけたんだし…出来るでしょ…多分…」


佐藤:「…ぅん」


安岡:「…帰るか」


-数日後


佐藤:「…なんでまたここに来ちゃったのかな?」


安岡:「…お礼、言えてなかったから、花でもお供えしようかと…」


佐藤:「…同じこと考えてた。お線香あるよ。」


安岡:「…うん」


佐藤:「…井納田さん、ありがとうございました。アナタのおかげで無事に帰れました」


安岡:「なんかバタバタしててお礼言えなくてすみません…ありがとうございました…」


佐藤:「……これでいい?」


安岡:「良いでしょ、ちゃんとお礼言ったし…」


井納田:「良くなァい!!」


安岡:「うわっ!」


佐藤:「い、井納田さん!?」


井納田:「私は生前おはぎが好きだったのだ!次のお供えにはおはぎを所望するぞ!」


佐藤:「い、生きてた?」


安岡:「いや死んでるけど…生きてた!」


井納田:「あの程度の悪霊を払えずして、この時代まで正気を保っていられるものか!」


佐藤:「いや、最初めっちゃ怖かったけど…」


井納田:「あれは演出というモノだ!おかげで首も戻った!私はもう少しこの時代を楽しんでから成仏する事にした!なので!明日からはおはぎを!!」


安岡:「明日から!?1回じゃダメなの!?」


佐藤:「…はぁ、わかったよ!成仏するまでだからね!」


井納田:「うむ!!」


安岡:「M/そして、井納田さんはしばらく現代を満喫して成仏した。よほど楽しかったのか、生まれ変わるならまた人間になりたいって言ってた…いつかまた、会えるといいな…」


終わり

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