第11話 最終話 始まりは信じること
午後下書きをした。
授業中にふと浮かんだ。
カセットテープを入れる?
分厚く音がする。
開けてくれる可能性が上がる?
曲は彼には合わせない。
自分が大好き。
私が伝えたい、彼に考えて欲しい、言って欲しい歌詞の曲。
家にラジカセは一台。
録音するにはもう一台必要。
クラスにラジカセを置いてる子がいた。
体育祭の応援の練習用に、持って来て置いたまま。盗る人はいない。
持ち主に
「ひと晩だけ家で使いたいから貸してくれない?」と聞いた。
「なんで必要?」
「テープからテープに録音したいから」と言うと、
「いいよ。休み明けでもいつでも」と。
さすがお嬢様。
テープも新品がある。
土曜半日と日曜日かけて作った。
バラードは飽きる?
頭は大好きなリンダ・ロンシュタットの
♪恋に落ちるのは簡単〜?
ウイングスもラブソングが。
ビリーはB面?
『愛は哀しくて』は入れない。
で、裏面は大好きなバラード曲。
最後はやっぱり『サラ・スマイル』?
エルトン・ジョン『僕の歌は君の歌』?
裏面頭は『ラヴィン・ユー』?
10cc?
好きな曲で埋め尽くす。
手紙に「好き」って書くより、曲なら
「アイ・ラブ・ユー」が何回出て来ても大丈夫?
文字にするよりは簡単。
テープは超原始的。
音は超悪い。
ラジカセを向かい合わせに置いて、片方は再生ボタン、反対は先に録音ボタンを押し、終わると一時停止を押す。
曲の頭をあちこちのテープから、探すのが録音より時間がかかる。
レコードなら早いけど。
「アレ?ホール&オーツが無い?」とか。
早送りや巻き戻して探すと飛んだり。
静かな曲は電車や警報器の音がしない、夜作業することに。
ケースの曲目は、「ラブ」がいっぱい。
月曜日カセット入りの封筒を、君子に渡した。
火曜日が決戦。
駅に君子はもういた。
私は先に電車乗り、バス停で待った。
「渡せた?」
「渡せたよ。ビックリしてた。やっぱりあの女やな」
「あの女子は、鈴村君はただの友達で、何とも思ってないから友達になれば?って言ったとか。他に好きな人がいる、も言ったらしいよ」
「あの人目付き怖いな」と笑った。
「話は聞いてくれた。何で逃げたか?にはかなり黙ってたけど」
「英ちゃんは無視された理由が、わからなくてずっと悩んでた」って。
「英ちゃんは何とも思ってない人と、毎朝なんて一緒に行かない。私が色々言っても信用しないでしょ?彼女が言いたいことは手紙に書いてあるから、読んであの子と話して下さいって。言いたいことだけは言った」
「あの人はしばらく黙ってて。他に好きな人は?って聞いたわ」
「他に好きな人も彼氏もいない。話したい相手は鈴村君だけって言った」
「恥ずかしいわ〜。読んでくれる?」
「テープも聞いては言うといた」
「あの人、おばちゃんみたいな話し方やなぁ」って笑った。
手紙には、「無視や走って逃げるような、悪いことを私がしたなら、謝りたい。話してくれないから理由もわからない。理由だけでも鈴村君の口から説明して欲しい」
「テープは私が好きで、出来たら一緒に聴きたい曲を入れた」
「朝でも帰りでも、電話でも良いから説明して欲しい」
「私は話せなくて寂しい。出来たら一緒にいたいと思っている」
「嫌いなら仕方ない。仲良くなれなくても理由だけでも教えて下さい」とお願いした。
最後に「話したくないなら、話したくないだけでも伝えて下さい。待ってます」
やっぱり「好き」は書けない。
翌日も連絡はなく。
やっぱり駄目か…と。
金曜日の朝、駅の改札近くで「前田さん」と彼の声がした。
柱の前に立ってて驚いた。
「手紙ありがとう。テープも」
「読んでくれた?」
「読んだ。友達にも見せた」
「恥ずかしいやん」
「ごめん」
「電車に乗る?」と歩き出した。
「本当は帰りに待って、話そうと思ったんやけど…。とにかく謝りたくて」
「鈴村君が謝る?」
「僕が勝手に考えてて…」
「声をかけたやろ?あの日も待ってて、同じ電車に乗った」
「偶然じゃない?」
「前から気になってて、話してみたいって」
「中学から友達と話してるのを見てた。楽しそうに笑う子やなぁ…、笑顔も声も良いなぁ…とか」
「私も中学から知ってたよ」
お互い気になってたのに、何故ああなった?
「見てただけで。で去年の夏休み明けから、男子校のヤツと一緒やったやろ?」
元彼のこと。
「付き合ってる?って。気になる人やと気づいた」
「早よ別れろって。まあ長かったやん?」
中学生で十ヶ月。
「五月から一人になった。チャンスか?って。でも朝は声はかけられない」
「帰りも何回か待ってた。あの日やっと声をかけた。目が合ってアッってなった。話しかけるしかないって」
「早く声をかけないと、他のヤツに取られたら嫌。僕なりに頑張った」
「次の日の約束もせず。付き合っても言えず。話せて嬉しかったけど、僕は失敗したか?って」
「でも次の朝は来てくれた。朝はずっと来てくれたやん?」
「話したいから行ったよ」
「学校の友達は真面目で馬鹿やから、それは付き合ってるやん!って。だから
僕も付き合ってる気になってた」
苦笑いして話した。
「何それ?男子校の基準?」
「僕の周りの基準。誰も彼女どころか、ずっと女子と話もしてない」
「でも付き合ってるなら、夏休みも会わないは寂しくなかった?」
「会いたいが伝わってたら、大島さんに、友達とは答えなかったかも?」
「別に付き合ってって言わなくても、気持ちがわかる話題は他にもあるのに。私に興味が無さそう?
自分が思ってることを隠したい?
悟られたくない感じが気になって。
好きを出したら負け!ってゲームしてるのか?って。顔もロクに見てくれないし」
「ごめん。恥ずかしくて顔をちゃんと見られなかった。引かれるって」
「付き合ってるつもりでも恥ずかしい?」
「見せられへんけど日記にはいっぱい書いた。嬉しかったり重いかなぁってこと。聞きたいこともあったけど、つい話しやすいからラジオの話したり」
「重いって?」
「一日中一緒にいたいとか」
「同じこと考えてたならそう出来たのに」
「4時間半も電話するなら、会えば良いのにって」
「2年の夏休みは勉強しろ!とか親父がうるさくて。夏期講習とか修学旅行もあったし、家を空けるのは難しくて」
「本屋に参考書見に行くとか、言い訳出来たやん」
「あー。僕は嘘付くの下手や。顔に出てすぐに見破られる」苦笑いした。
「会いたいなら策は考えられる。だからアナタは大して会いたくもなかったって」
「会いたいって言うのも勇気いる」
「ビビリなん?」
「断られるのは怖い」
「付き合ってるって思っても?」
そう、付き合ってつもりなら、もうちょっと何か態度に出せば良かっただけ。
「デートはどうしたら良いかわからん」
「近所を散歩する?で良かったのに。全く誘われないと気が無いって。私に」
「散歩か…。それで良かった?初デートはちゃんとしないとか、考え過ぎたか?」
「夏休みはひと月半やで。何か考えられるでしょ?頭良いんやし。行きたくないから浮かばないんでは?」
「それは違う。日記見せるか?」
「お土産を渡しに来てくれるだけでも良かったのに」
「家へ行くはハードル高い」
「親はいないって知ってたやん?」
「妹さんが出てくるとか。急に帰って来るとか」
「映画も調べたけど、スターウォーズとサタデーナイトフィーバーぐらいしかやってないし」
「デート=映画じゃないし。顔が見たかっただけ」
「僕が悪い。おまけに今朝会った子の言うことを鵜呑みにするとか。僕がアホ。他に好きな人がいるのを認めたく無くて」
「だから逃げたん?」
「僕はただの友達。それを確認するのは怖くて嫌やった」
「あかんたれやなぁ…」英子は笑った。
「どのみち話せなくなって、他人のフリしたし」
「逃げてごめん。自分勝手やった。他にはいない?」
「まだ信じられへん?私が。頑張って手紙書いて、あんなテープ作ったのに?」
「ごめん。疑いじゃなくて確認しただけ。テープは聴いたら泣きそうになった。ちょっと泣いたか?」と彼は笑った。
「何で何日もかかった?」
「色々考えた。受験も1年後。前田さんと向き合う余裕が自分にあるのか?とかな」
「僕が荒れてたから、母さんにはバレたみたいで」
「何が?」
「最近機嫌が良かったのに。また難しい顔して何かあった?って聞かれたから、だいたい話した」
「叱られた?」
「まあな。逃げて人に嫌な思いさせたんなら謝り!って」
「彼女に許して貰えたら、やっぱり付き合いたいって言うた」
「ならお父さんには黙っとくから、伝えたら?って。」
「代わりに勉強は勉強で、ちゃんとしなさい。成績が下がったらお父さんにバレるって」
「1番悩んだのは大島さんのこと」
「何かあった?」
「あの子強引やん?レコード買いに行くの付き合ってって行った。ヤケクソやし土曜日の昼に」
「そしたら腕組んできて。デートが出来て嬉しいわ!私ら付き合ってるやんな?とか言い出して。
「ベタベタしてくるから、振り払おうとしたら、胸触った!とか言い出すし」
「僕は付き合う気は無いって言うと、前田さんに全部言うよ。デートして胸触らたとか。あの子にエロい男子って思われても良いの?って脅すようなことも言われて」
「だから友達?」
「そんな感じ。電話して来て勝手に、映画行くで!とか」
「断われないのは何故?」
「デートや胸がどうこうとか、知られたくなかった。前田さんを忘れられてないから」
「ならなおさら断らないと」
「あの子と音楽の話はする。でも一緒にいると違うのもわかる」
「僕らやと僕が話して、前田さんはちゃんと聞いて反応してくれる。あの子は自分がしたい話だけ。話変えるし」
「良い友達いるな」
「君ちゃん?」
「あの子は大島さんは友達でも無く、正直苦手や。英ちゃんも多分同じって」
「通学が一緒だから無視出来ないだけで、あの人に本心は言わない」
「鈴村君の前では違うかも?やけど、自分勝手な人やし」
「ウチの母さんは彼女の電話に出て、感じの良い子じゃないって思ってたらしい。あの子はどうするん?って、突っ込まれた」
「昨日大島さんに電話して、もう一緒に出かけない。前田さんに何言うても良い。僕は自分で全部ちゃんと話すからって。反論?して来たけど、言い返して切った」
「それよりおばちゃんの、連絡網は恐ろしい。近所の人が見て母親に教えたらしい。相手の女の子も健康的な感じで、お似合いやったとか、和ちゃんが嬉しそうに笑ってたとか。恥ずかしい」
「前田さんに確かめずに、あっちの話を信じたりしてごめん」
「友達って答えた。悪いのは私。原因は私にある」
「いや、何も言わずにいた僕が馬鹿」
「まあね。女子校でも電話番号聞かれた、話しただけで彼氏とは誰も思わないよ。学校は変な人ばっかり?」
「変なヤツは確か」
「皆んな勉強のし過ぎで、頭おかしくなってるのかもね?」二人で笑った。
「テープは前田さんは僕とは違うけど、広い世界の人?とか。大人やん?とか。ミニー・リパートンの声な…」
ってまた、いつもの調子に戻りそうだったから、
「今は誰かの話はやめとこう?お互いの話だけ」
「わかった。またやらかしてる僕」と苦くて恥ずかしそうに笑った。
「『サラ・スマイル』は笑顔が浮かんた。前田さんの」
「あれは別れそうなカップルの話なんよ。でもその人がいて、笑って欲しい気持ち、大切に思ってる気持ちにグッと来たから入れた」
「自分で曲の話してるやん?」と突っ込まれた。
「語る気は無い。私は一緒にいられたら楽しい。一緒にいるだけで良いって思ってたから入れた。でも鈴村君は?私のことどう思ってるの?」
あんなテープを渡したからには、聞きたいことはこの際聞く。
英語もわかる人?
明日また関係が、壊れるかもしれない。
別の誰かが寄って来る?
私にも可能性はある。
だから今確かめたかった。
混雑した通勤電車の中だけど。
彼は周りを気にしたのか、珍しく顔を私に寄せて耳元で小さな声で
「大好き」って。
だいはよく聞こえなかったけど。
「どこが?」意地悪な気持ちもあった。
「全部」
「全部はええ加減。具体的に言わないと」
意地悪モード。
「えー。匂いでクラクラするなぁ…」
「シャンプーが好き?花王が好き?」
「意地悪やなぁ」
「泣いたよ。だからお返し」
「僕は暴れたな、腹が立って。他に好きな人?何それ?」
「あんな人の話を確かめないで、信じたから自業自得。私は悲しくて。何故?無視もわからない」
「泣いたのは久しぶり。名誉かも?」
「元彼と別れた時は?」
「泣かないよ」
「そっちは全部とかいい加減やけど、私はちゃんと言えるよ」
「鈴村君の見た目が好きな子はいそう。でも私が好きなのは、見た目じゃない」
思わず好きとか言ったか?私。
「背が高い人は好き。自分も高いから。
私を笑わせてくれる。楽しい。お土産のセンスは変わってるけど。人と違う考えや感じ方が、自分がある人やから。ちょっとだけ優しいし」
「ちょっとだけ?」
「お土産を買ってくるぐらいの優しさな。けど会いたいのに、会ってくれない。無視もしたから冷酷非情かもね」と笑った。
「無視は本当は辛かった。バッタリ会うから。もう1回話しかけたら…と思ったこともある」
「なら話しかけてくれたら、少なくとも私は無視せずちゃんと聞いたよ」
「やっぱり僕やな。悪いのは」と、うなだれた。
「言いそびれそうやから、先に言うわ。今日帰りは待ってて。わかる場所で。ホームのベンチか改札近くにいて」
「わかった。ちゃんと待つ」
「踏み切りで話すのは嫌。何でも良いから、うるさく無い場所で、ちゃんと話しがしたい」
「先に言われた。あかんなぁ僕」
ホームを歩いてたから、私は立ち止まって「約束!」って、右の小指を出した。
彼は驚いたけど、そっと小指で優しく指切りした。ドキドキした。
「考えたり感じてることは、言葉や行動にしないと。不安だらけになって、またこんなことが起こるかも?」
彼はうなづきながら、
「不安やった?」
「もちろん。個人的な話はしない聞かない。毎日お母さんのお弁当かも、友達がどんな人かもお互いに知らない。友達でも何考えてるか、わからないと気持ちは離れるよ」
「聞きたいことはいっぱいある。でもラジオの話で盛り上がる。笑ってくれるからついな」
「あんな話しかしないなら、嫌になってたかも?」
「僕らがアホやったんやなぁ」
「友達を考え直したら?」と笑った。
帰りは近くの公園のベンチで話した。
人が来ないから枯れ草はぼうぼう。
個人的な質問をし合った。
「おばあちゃんは寝てるはずが、起きてて電話の時間を、母さんに報告してた」
「母さんに言われた。4時間半も話せて、楽しんでくれる子は大事にしろって。奇特やって。私はアンタの話は三十分でもゴメンやわ…って」苦笑い。
「テープはずっと聴いた。『ラヴィン・ユー』よく聴いたら歌ってる?」
「バレた?つい口ずさんで。聴いたらマズい?って。でも頭から全部録音し直しはなぁ…って、小さいから気づかないか?って」
「気づいたよ。聴いたら前田さんの声がするから、あのテープは宝物やな」
「私が彼女やったら、前田さん呼びは寂しいから何か考えて」
「エイちゃんは矢沢永吉みたい。良い子のええちゃんは?俺は皆んなは和か鈴って言うけど」
「なら和君って呼ぶ。一歩前進?」2人で笑った。
寒くなった。もうすぐ十二月。
帰り道に聞いた。
「手袋とマフラーどっち?帽子でも」
「何それ?」彼は立ち止まった。
「何色?好みがうるさそうやなぁ」
「もしかしてプレゼント?」
英子は彼の周りをゆっくり回りながら、
「クリスマスまでなら小物しか無理」
「手袋も編める?」
「編み物は得意。今着てるコレも自分で作った。手袋も多分出来る」
「お母さんが編んでくれるから、別にいらん?」
「ウチは学校中探しても、彼女に編んで貰う奴はおらん」
「いる?いらん?」
「欲しい。マフラー?が良いけど、色が決まってる。学校で」
「ならその色?私服用の派手なの?」
「学校にして行きたい」
「来年まで一緒にいられたら、好きな色のド派手なセーター作ってあげる」
少し先の未來の話が出来るのは、幸せだと気づいた。
叶わなくても。
「ラジオばっか聞いてないで、勉強しないと。ずっと遊べないよ」
「浪人やとそっちも高三で、二人で勉強も悪くはない」
二人で笑い合えるのは幸せだ。
家まで送ってくれた。
「レコード屋さんに行きたい」は、すぐに叶えられそう。
「明日土曜日に行く用がある」らしく。
待ち合わせは、オシャレなビルの前。
人間関係、特に恋愛はガラス細工のように脆くて、壊れやすい。
互いを信じることも、考えを伝えるのも難しい。
でも、そこから一歩は始まる。
死にたい女子高生とイケメン三高男子 @Tokotoka
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