第2話 葬式にまつわる怖い話2『最期の餅』
──祖母は師走の二十九日に亡くなりました。正月前の慌ただしい時期に。
死因は老衰です。とにかくばたばたした葬式でした。年末年始って、葬儀場や火葬場も休みになるんでね。
早く、祖母を送り出さなくてはって気ばかりが焦って。正直、別れを悲しむ暇もなかった。
どさくさに紛れて、香典泥棒が現れるわ。祖母の遺品が盗まれるわ。罰当たりですよ、まったく。
正月は祖母の家にみんなで集まっていましたから、それぞれ、おせち料理を持ち寄っていました。でも、喪中なので、祝い料理は食べられません。中途半端な料理を、みな無言で黙々と食べました。
男衆は酒ばっかり呑んでいましたよ。酒はね、目覚まし(※九州地方に伝わる、通夜見舞いのこと)で貰って大量にあったから。
祖母は亡くなる直前、餅をつくつもりだったらしく、もち米を水に浸していたんですね。
水につけたもち米を、そのままにしておけない。大伯父が
その餅を、祖母の遺影の前に供えていました。あんこ餅でした。
親族一同、酒を酌み交わしながら、祖母の思い出話に花を咲かせていました。
母親を亡くしたのがつらかったのでしょう。酔った叔父が泣きながら、お供え物のあんこ餅を猛烈な勢いで食べたんですよ。
つきたてだったらそのままでも食べられますけど、二日くらい経っていますから、硬くなっている。焼かないと食べられない餅です。喉に詰まると、危険です。
でも、叔父は酔っていますから、がむしゃらに食う。みんなで止める。叔父は意固地になって食う。
祖母が最期に用意したもち米だったから、叔父は執着したのでしょう。でも、母親を亡くしたのは叔父だけじゃないんですよ。みんな、祖母の最期の餅を食べたかったはずですよ。
結局、叔父はすべての餅を食いつくしました。普段は食が細いひとなのに。
それで、しまいには吐いて……全員、呆れていました。
トイレからふらふらと出てきた叔父が言いました。
「おれ、泥を吐いた」って。酔っ払いの戯言だと思い、みんなで「寝ろ!」と怒鳴りつけました。
翌朝、叔父がトイレに閉じこもって出てこない。やっと出てきたと思ったら、
「便に小石が混ざっていた」と、言うのです。みんな、叔父の言動にはうんざりしていましたから、まともに聞きませんでした。酒を持たせて、家に帰しました。
──叔父が大腸がんで急死したのは、三か月後のことでした。祖母が叔父を連れていったなんて考えたくないですけど、ぼくにはどうも、叔父が死んだのはあのあんこ餅のせいじゃないかと思えてならないのです。了
闇の葬列【葬式にまつわる怖い話】 その子四十路 @sonokoyosoji
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