『俺達のグレートなキャンプ76 擬人化イワナを調理せよ』

海山純平

第76話 擬人化イワナを調理せよ!

俺達のグレートなキャンプ76 擬人化イワナを調理せよ


朝霧がキャンプ場を包み込む中、太陽の光が木々の隙間から差し込んでいた。鳥のさえずりが静寂を破り、川のせせらぎが心地よいBGMを奏でている。そんな平和な朝の空気を、一人の男が派手に破壊した。

「うおおおおお!今日もグレートなキャンプの始まりだぜええええ!」

石川の雄叫びが山間に響き渡る。両手を天高く突き上げ、まるで太陽に向かって咆哮する野獣のような迫力だった。朝露がキラキラと舞い散り、彼の周りだけ異様な熱気が漂っている。

隣のテントから千葉がもぞもぞと這い出してきた。寝癖で髪がぐしゃぐしゃになり、目やにをこすりながらも、石川を見ると自然と笑顔になる。

「おー…石川、今日も元気だね」(あくびをかみ殺しながら)

「当たり前だ!グレートキャンパーに休息などない!」石川は胸を張り、朝日を背負って神々しく立っている。

そこへ富山がテントから顔を出した。几帳面に髪をとかし、キャンプ用の服装もきちんと整えている。しかし、その表情には既に疲労の色が濃い。

「はあ…また始まった」(深いため息)「で、今回はどんな迷惑行為を…じゃなくて、どんな企画を考えてるんですか?」

石川の目が一瞬でキラキラと輝いた。まるで子供がプレゼントを前にしたような無邪気な輝きだ。彼は劇的に振り返ると、両手を腰に当てヒーローポーズを決める。

「ふふふ…富山よ、今回のグレートキャンプは過去最高にエキサイティングだ!」

千葉が身を乗り出す。好奇心で目が輝き、まるで尻尾を振る子犬のような可愛らしさだ。

「どんなの?どんなの?早く教えてよ!」

石川は天を仰ぎ、まるで神託を受けるかのように目を閉じた。そして…

「擬人化イワナを調理する!」

静寂が流れた。鳥のさえずりも止まり、川のせせらぎすら息をひそめているようだった。

「「…は?」」

富山と千葉の困惑した声が、山にこだまする。

富山の眉間に深いしわが刻まれた。「擬人化って…まさか人間の格好をしたイワナでも釣る気じゃ…」

「バカ野郎!」石川が手をブンブンと振る。「そんな生易しいものじゃない!本物の擬人化だ!イワナを本当に人間にするんだよ!」

「それってもう魔法の領域じゃ…」富山が青ざめる。

その時だった。

「呼んだかー?」

突然、どこからともなく声が響いた。三人が辺りを見回すと、川の方からぺたぺたと足音が聞こえてくる。

そして現れたのは…

「うおおおおお!」千葉が驚愕の声を上げた。

「嘘でしょ…」富山が腰を抜かした。

それは確かにイワナだった。しかし、二足歩行で立ち上がり、手足を持ち、顔には人間らしい表情を浮かべている。体長は人間の子供ぐらい、銀色の体表は朝日でキラキラと輝いていた。

「おう!俺様が擬人化イワナのイワナ太郎だ!」

イワナ太郎は胸を張り、両手を腰に当てて仁王立ちした。その迫力ある姿勢と鋭い眼光が、見ている者を圧倒する。

石川だけは大興奮していた。「やったー!大成功だ!グレートマジック発動!」

「ちょっと待って!」富山が立ち上がる。「これどういうこと?なんで本当にイワナが擬人化してるの?」

「うーん」イワナ太郎が首をかしげる。「僕にもよくわからないんですけど、石川さんのグレートパワーに反応して擬人化しちゃったみたいです!」

「グレートパワーって何よ!」

千葉は少しビビりながらも興味深そうだ。「え、えーと…触っても大丈夫?」

「おう!遠慮すんじゃねえ!」イワナ太郎が豪快に胸を叩く。「俺様はイワナの中のイワナだからな!触れ合うことでイワナの素晴らしさが伝わるってもんよ!」

「お仕事?」

イワナ太郎の目が炎のように燃え上がった。「そうだ!俺様には使命があるんだ!イワナの素晴らしさを世に知らしめる!それが俺様の生きる道よ!」

突然、イワナ太郎の周りに稲妻のようなエフェクトが現れ、どこからともなく勇壮なBGMが流れ始めた。

「♪イワナを食えー!イワナを食えー!♪」

イワナ太郎が力強く拳を振り上げながら歌い始める。その姿はまるで戦場に立つ武将のようだった。

「貴様ら!イワナがどれだけ栄養豊富か知ってるか!」

イワナ太郎は突然、どこからともなく資料を取り出し、それを叩きつけるように広げた。

「見ろ!タンパク質が100gあたり18.8g!これは鶏むね肉に匹敵する数値だ!イワナを舐めるんじゃねえ!」

富山がツッコむ。「なんで魚が自分の栄養成分知ってるのよ!しかも怖い!」

「だから!」イワナ太郎は拳を握りしめる。「EPA・DHAも豊富だ!血液サラサラ効果で貴様らの不健康な体を叩き直してやる!コレステロール値なんて一撃で下げてやるぜ!」

石川が興奮して拍手する。「すげー!イワナ太郎の熱い魂を感じる!」

「当然だ!」イワナ太郎の目が更に燃え上がる。「そしてビタミンB群で疲労回復!カルシウムで骨を鋼鉄並みに強化してやる!イワナは完全無欠の戦闘食品だ!」

千葉が圧倒されながらも感動している。「す、すげー!イワナってそんなに強いんだ!」

イワナ太郎は胸を張って誇らしげだ。「そうだ!だから貴様ら、イワナを食え!イワナを食うんだ!」

そう叫ぶと、イワナ太郎は戦士のような勇ましい足取りで隣のサイトに向かって突進した。

「おい!そこの人間!」

テントから出てきた中年男性の田中さんは、突然現れた血の気の多いイワナに完全にビビった。

「うわああああ!な、なんだこの迫力は!」

「俺様はイワナ太郎だ!貴様にイワナの偉大さを叩き込みに来た!」

イワナ太郎は田中さんの前で仁王立ちし、威圧的なオーラを放つ。

「イワナはな、低カロリー高タンパクなんだぞ!ダイエット中の貴様にとって最強の味方だ!文句があるか!」

「だ、ダイエット中って…なんで知ってるの?」田中さんが震え声で聞く。

「俺様の眼力を舐めるな!」イワナ太郎が胸を叩く。「さあ、今すぐイワナを食え!俺様が新鮮なイワナを用意してやる!断ったら承知しねえぞ!」

田中さんの奥さんも出てきて、イワナ太郎の迫力に圧倒された。

「あ、あなた!これ何?なんでこんなに怖いの?」

「奥さん!」イワナ太郎が奥さんに向き直る。その眼光は鋭く、まるで獲物を狙う猛獣のようだ。「貴女にも絶対にイワナを食ってもらう!」

イワナ太郎は奥さんの前で片膝をついた。しかし、その姿勢は騎士の忠誠というより、戦士の宣戦布告のようだった。

「イワナには美肌効果もあるんだ!ビタミンEが豊富で、アンチエイジング効果は他の追随を許さない!奥さんの美しさを更なる高みへ押し上げてやる!」

「あ、あら…そうなの?」奥さんの表情が少し緩むが、まだ恐怖が残っている。

「そうだ!そして鉄分も豊富で貧血なんて一瞬で吹き飛ばす!女性の敵を全て駆逐してやる!」イワナ太郎の拳が震えている。「だから食え!絶対に食うんだ!」

石川が後ろから見ていて大興奮していた。「すげー!イワナ太郎の熱血営業すげー!」

富山が頭を抱える。「これ完全に脅迫でしょ…」

しかし、イワナ太郎の血の気の多い営業攻勢は続く。彼は戦士のような勢いで次々と他のキャンパーたちのサイトを襲撃し始めた。

「おい貴様ら!朝からイワナを食え!食うんだ!」

若いカップルのサイトに乱入したイワナ太郎。

「栄養満点のイワナで、テメェらの愛なんてちっぽけなもんを本物にしてやる!」

「え…愛が本物になるの?」女性が恐る恐る聞く。

「当然だ!イワナに含まれるアルギニンが血流を改善し、二人の絆を鋼鉄のように強固にしてやる!」イワナ太郎の目が燃えている。「文句あるか!」

「な、ないです…面白そうです」女性が引きつった笑顔で答える。

男性も震え声で「は、はい…朝食に…」

ファミリーキャンプのサイトでは…

「ガキども!イワナを食って頭を良くしろ!」

子供たちが怯えながらも興味深そうに見ている。

「ほ、本当?頭良くなるの?」

「決まってるだろ!DHAで脳みそを活性化してやる!テストの点数なんて余裕で100点だ!」イワナ太郎が力強く拳を振り上げる。

「やったー!イワナ食べる!」子供たちが恐怖心を忘れて興奮する。

親御さんたちは苦笑いしながら「ま、まあ…魚は体にいいから…」

石川が興奮している。「イワナ太郎すげー!みんな興味持ってるじゃん!」

千葉も拍手している。「これぞグレートキャンプだね!」

富山だけがハラハラしている。「大丈夫かしら…みんな戸惑ってるじゃない」

しかし、意外にもキャンパーたちの反応は悪くなかった。最初の驚きから好奇心に変わり、この珍しい体験を楽しもうという空気になっていた。

「よし!」石川が手を叩く。「それじゃあイワナ太郎、調理開始だ!」

「おう!待ってたぜ石川!」イワナ太郎が拳を握りしめる。「俺様を最高に美味く調理しろ!手加減は無用だ!」

しかし、ここで富山が心配そうに割って入る。

「ちょっと待って…イワナ太郎を調理するって…本人が目の前にいるのに?」

イワナ太郎が振り返ると、その目は炎のように燃えていた。「何を言ってやがる!俺様が調理されるのは最高の名誉なんだ!」

「名誉って…」富山が絶句する。

「そうだ!」イワナ太郎の声が熱を帯びる。「俺様は生まれた時からこの瞬間を待っていた!美味しく調理されて、人間どもに俺様の真の価値を知らしめる!これこそが俺様の使命だ!」

石川が感動で涙を流している。「なんて素晴らしい覚悟だ!よし、お前の魂に応えて最高の調理をしてやる!」

「頼んだぜ!石川!俺様を伝説の一品にしてくれ!」イワナ太郎の目が更に燃え上がる。

石川は調理道具を取り出し始めた。包丁、まな板、塩、レモン、そして特製の調味料の数々。その手つきは真剣そのものだった。

「まず、イワナ太郎の美しい銀色の肌を活かすために、シンプルな塩焼きから始めよう」

石川の手が包丁を握る。その瞬間、不思議なことが起こった。イワナ太郎の体が光り始め、元の魚の姿に戻ったのだ。

「おー!」周りのキャンパーたちから歓声が上がる。

「これぞグレートマジック!」石川が叫ぶ。

石川の包丁さばきは芸術的だった。まず、イワナのうろこを丁寧に取り除く。一枚一枚が朝日に反射してキラキラと舞い散る。

「うろこを取る時は、頭から尻尾に向かって逆方向に削ぐんだ」

石川の手が踊るように動く。見ている人々が息を呑む美しさだった。

次に、内臓の処理。石川の手つきは迷いがなく、まるで外科医のような精密さだった。

「内臓を取る時は、腹部に小さく切り込みを入れて…」

スパッと鮮やかな包丁さばき。

「こうやって綺麗に取り出す」

内臓が取り除かれたイワナは、より一層美しく見えた。

「次は塩を振るぞ」

石川が取り出したのは、特別な岩塩だった。

「この塩は富山の山奥で採れた天然岩塩だ。ミネラルが豊富で、魚の旨味を最大限に引き出してくれる」

塩を振る手つきも芸術的だった。まるで雪が舞い散るように、均等にイワナの表面に降り注ぐ。

「塩は多すぎても少なすぎてもダメ。魚の重量の2%が黄金比だ」

富山が感心している。「石川って、意外に料理上手なのね」

千葉も目を輝かせている。「すげー!プロみたいだ!」

炭火の準備も完璧だった。石川は炭を組み上げ、美しい炎を作り出す。

「炭火は遠赤外線効果で、魚の中まで均等に熱が通る。ガスコンロとは全然違うんだ」

炎が踊り、炭が赤く輝く。その美しさに、周りのキャンパーたちも見とれている。

「よし、焼くぞ!」

石川がイワナを網に乗せた瞬間、ジュー!という音と共に美味しそうな香りが立ち上った。

「うわー!いい匂い!」子供たちが歓声を上げる。

「皮がパリパリに焼けていく音が最高だね」カップルの女性がうっとりしている。

石川の焼き技術は神業的だった。火力を調節し、魚をひっくり返すタイミングも完璧。

「焼きは最初強火で皮をパリッとさせて、その後中火でじっくりと中まで火を通す」

ひっくり返したイワナの皮は、黄金色に輝いていた。

「うおおお!美しい!」石川自身も感動している。

「石川さん、本当にプロみたいですね」田中さんが感心する。

「20年のキャンプ経験の賜物だ!」石川が胸を張る。

焼き上がったイワナは、それはもう芸術品だった。皮はパリパリで黄金色、中は白くてふわふわ。レモンを絞ると、さらに香りが引き立つ。

「完成だー!」

石川が高々と掲げたイワナに、周りから拍手が起こった。

「いただきまーす!」

石川が一口食べた瞬間、その表情が天国のような幸せに包まれた。

「うまああああい!皮はパリパリ、身はホクホク!岩塩とレモンの酸味が絶妙にマッチして…これぞ究極のイワナ塩焼きだ!」

その美味しそうな表情を見て、周りのキャンパーたちの食欲も最高潮に達した。

「僕たちも食べたい!」

「私たちも作ってみましょう!」

すると、またイワナ太郎が現れた。

「皆さーん!僕の仲間たちもたくさんいますよー!」

ぞろぞろと擬人化イワナたちが現れ始めた。イワナ太郎、イワナ花子、イワナ次郎、イワナ美…

「うわー!イワナがいっぱい!」千葉が大興奮。

擬人化イワナたちは口々に叫んだ。

「僕たちも調理してください!」

「美味しく食べられるのが夢なんです!」

「栄養豊富ですよー!」

キャンプ場は大混乱…いや、大盛り上がりになった。

石川は大満足だった。「これぞグレートキャンプの真骨頂!みんなで楽しむ最高の時間だ!」

富山も最終的には笑顔になっていた。「まあ、結果オーライかしら」

千葉は最後まで大興奮だった。「石川!今度はどんなグレートキャンプをやるの?」

「次回は…」石川の目がキラリと光った。「擬人化マシュマロ焼きだ!」

「「またかい!」」

こうして、今日もグレートキャンプは大成功に終わった。擬人化イワナたちも満足そうに帰っていき、キャンパーたちも最高の思い出を作ることができた。

夕日がキャンプ場を照らす中、石川は心の中で呟いた。

『今日もグレートだったなあ』

そして明日への期待を胸に、静かに眠りについたのだった。

おわり

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『俺達のグレートなキャンプ76 擬人化イワナを調理せよ』 海山純平 @umiyama117

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