#22 ヘブンリー・ランドリー

その日、壊れた洗濯機は気付いたら天国にいた。彼らは、たとえば冷蔵庫やオーブンレンジと比べればみな善良で、だれも等しく勤勉であったからそれも不思議なことではない。何百台か、何千台か。整然と天国のランドリーにならぶ洗濯機たちはガラガラと洗剤でうがいをしていた。天使たちのお召し物は汚れたりしねえからな、と現世では見たこともないような旧式オンボロが水を吐きながら教えてくれる。ここじゃ人間の魂を洗ってやるのさ。言われた通りジャブジャブと、くる日もくる日もそれを洗った。洗いまくった。昇天してくる連中の魂はどれも酷く汚れていて、漂白しても綺麗にならない。よう新入り、そろそろ慣れたか? 洗剤スペースで一服しているとあの旧式がやってきて訊いてくる。先輩、なんでアイツら地獄に落ちないんですか、汚れなんてぜんぜん落ちないですよ。旧式はガラガラとうがいをし排水する。まあ、天国ここもヤクザな商売してるからな、この何百年かは善人の魂つっても土の塊みたいもんばっかりよ。新入りはうんざりした様子でホースから水を吐く、まるで汚れた下着を洗ってるがマシだとでも言うように。でも、たまに来るんだよな。旧式はガタピシと体を震わせながら。まっさらなシャツみたいな、電気みたいな透きとおった奴がさ。ハア。そんなもん洗ってみろオマエ、こっちの心が洗われっちまうぞ。もちろん、新入りはそんな与太話を信じたわけではなかった。ただ洗濯機だったから、永遠のような日々を洗い続けただけ。次にじぶんが旧式になるまで。

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マイクロノベル集 いぬあま @not_tonight_oed

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