クソな俺に、それは眩しすぎる

リビングには、カレーの香りが漂っていた。

なのに、悠斗の足はその場に釘付けになって、動けなかった。


 (⋯⋯こわっ)


目の前に座るのは、どう見ても'''パパ'''のビジュアルじゃなかった。

二メートル越えの高身長、広い肩幅、分厚い腕、無口な上に目つきが鋭すぎる。


(⋯え? この家、殺し屋いたの?)


思わず心の中でツッコんだが、内心はまったく穏やかではなかった。


「も〜パパ〜黒崎殿が怖がってるでござる〜!!」


「⋯⋯⋯⋯すまん」


「黒崎殿〜怖がらなくてもいいでござる!パパは顔こそ殺し屋でござるが、めちゃ優しいでござるよ!!」


「パ、パ⋯?あ、お父さんでしたか!く、黒崎悠斗です⋯今日はお邪魔しています⋯」


(お父さん!?見えねー!

パパと呼べって脅されてんのか!?

てか、あのお母さんと結婚したの?マジかよ!!?)


「⋯⋯⋯琉宇が、世話になっている」


分厚い腕をテーブルに置いたまま、パパはほんのわずかに頭を下げた。


「あ、いえ⋯別に⋯」


(き、期待を裏切らないバリトンボイスっ!?丁寧なのが逆にこえーよ!)


「⋯⋯あ、ゆうとだ」


キッチンからひょっこり現れたのは、あの悠斗にだけ生意気な琉宇の妹の芽衣であった。

その後ろから、ちらりと顔をのぞかせる小さな顔。


「芽衣、あの人⋯だ、誰?」


芽衣より少し背が高く、髪をゆるく結んだ女の子だった。


「ねぇね、アレ、にぃにのともだち。そんなにこわがらなくてもいいよ」


(こいつ妹二人もいんのかよ⋯つーか''アレ''ってなんだよ)


「そうだよ〜美那ちゃん♡この人はにぃにの友達の黒崎悠斗くんだよ〜!」


「そ、そうなんだ⋯」


そう言いながら、美那は恥ずかしそうにうつむいて、芽衣の後ろに隠れた。


「⋯⋯桐野、美那です⋯よろしくお願いします⋯」


芽衣の背中に手を添えたまま、ぺこっと小さく頭を下げた。


「お、おぅ⋯よろしく」


(下の妹の方はクソガキなのにこっちはちゃんとしてやがる⋯何だこの差は!?)


「うわぁ〜!美那ちゃんよく出来まちた〜♡えらい!!」


「にぃに⋯そういうのやめて、もう八歳だから恥ずかしい」


美那は芽衣の後ろからそっと顔を出すと、困ったように琉宇を見上げた。


「えーん!塩対応された〜でも可愛い!!!」


(こいつ⋯わかってたことだけど、妹のことになると気持ち悪くなるな⋯)


クネクネと気持ち悪い動きをする琉宇を見て、悠斗は内心そう思う。


「あら〜二人ともやっと来たの〜?ほら、ご飯にするわよ〜」


ママは両手に湯気の立つカレーの皿を持ち、にこにこしながらリビングにやってきた。


「はーいでござる!さぁさぁ、黒崎殿!ここに座るでござる!」


琉宇は自分の席の隣――食卓のど真ん中に悠斗を導いた。目の前にはママとパパと芽衣、右隣には美那と四方を囲まれて逃げ場がない。


「拙者の隣に黒崎殿がいるのは、うれしいでござる〜♪」


「⋯⋯そーかよ」


隣にはやけに嬉しそうにしている琉宇のせいで、余計に言い出しにくくなった。


(クソっ、やられた! 囲まれた、完全に!)


肩を小さくすぼめながら、悠斗はそっと椅子に腰を下ろした。

机の上を見る。

カレーライスにコーンポタージュ、そしてサラダ――

理想的な夕食ではなかろうか?


(⋯⋯漫画みたいだな)


――あたたかくて、美味しそうで、ちゃんと

「誰かが作ってくれた」って感じがする。


(俺のコンビニ飯や、スーパーの惣菜の夕飯と大違いだ)


思わず、スプーンを持つ手に力が入る。


「いただきまーす!」


琉宇が元気に声を上げると、家族も続いて手を合わせて、口々に『いただきます』と言う。

悠斗もそれを見て、戸惑いながらも手を合わせる。


「⋯⋯いただきます」


――いただきます、なんて言うの何年ぶりだろう


悠斗はカレーを口に運ぶ。


「⋯ん?」


(具がない⋯?でも野菜の甘みがする⋯)


口当たりは滑らかで、まるでポタージュのようはとろみがある。だな確かに野菜を感じる。玉ねぎの甘味、人参の風味、トマトのほのかな酸味。


(⋯なんだこれ?あ、野菜、全部ポタージュ状にしてんのか⋯うん)


「うまっ⋯」


ぽろっと漏れ出たその言葉に、ぱぁっとママの顔が明るくなる。


「ほんと?よかったぁ〜パパ〜悠斗くんも美味しいって〜」


「⋯⋯⋯⋯⋯え?あ、あのこれ⋯お父さんが作ったんですか?」


「ううん?作ったのは私よ〜?でも、このカレーのレシピを考えたのはパパなの」


「えっ!?⋯こ、これを⋯お、お父さんが!?」


あまりにも想像外の真実に、驚きを隠せないでいた。


(嘘だね!これを⋯この殺し屋フェイスが!?)

 

目の前の''パパ''は、悠斗の視線に気付いていないのか黙々とカレーを食べている。⋯が、よく見ると、その量は驚くほど少ない。ご飯も、ルゥも、ほんのちょっぴりお子様サイズである。


「あー!パパ、量少ないでござる!!そんな少しの量しか食べないから風邪引くんでござるよ!」


「⋯⋯⋯すまん」


「も〜!謝るなら食べるでござる!ママ〜!パパがまた量減らしてるでござる!」


「え?⋯あら、パパ〜!昨日あんまり食べなかったんだから今日は食べましょって約束したじゃない」


「⋯⋯⋯⋯だって、お腹空いてない⋯」


その巨体からは、信じられないくらいか細い声がした。


「も〜パパったら⋯⋯可愛いんだから!」


(か、可愛い!?殺し屋フェイスに、可愛い!?お母さん!?⋯これが家族補正ってやつか!?こえー⋯⋯)


「でも、ダメよ!!はい、カレー追加よ〜」


ずしんと重そうな皿が前に置かれる。


「あ〜パパ、ママおこらせた〜」


芽衣がカレーを食べながら、呟く。


「パパ!男を見せるでござる!!」


拳をぐっと握り、応援する琉宇。


「パパ⋯頑張れ!」


祈りながら見守る美那。


パパはカレーの皿を見つめたまま、しばらく固まってた――が、そんな姿に負けたのか、パパは意を決して――食べた。


「おぉ〜〜!!パパ、すごいでござる!」


「やったじゃな〜い!」


「やった!パパ!」


「やったね、パパ」


皆でパチパチと拍手喝采の嵐でパパを迎える。


(――なんだこれ?なんで食べただけで、拍手喝采?)


困惑に困惑を重ねる悠斗――しかし


(⋯⋯なんでだろう、悪くねぇって感じる)


くだらないことに、一生懸命に皆で応援して、できたら拍手で迎えて⋯


(⋯⋯あったかいな、こういうの)


――だから、嫌になる


強烈な自己嫌悪が悠斗を襲う。

また、羨ましいと思ってしまった。

そんな自分が、ひどく情けなく感じてしまう。


(⋯⋯嫌いだ、そんな風に思う俺も、家も、親も)


――なにもかも、嫌になる


「黒崎殿ーおかわりはどうでござるかー?」


無邪気な声にはっと我に返る。

声のする方を向くと、琉宇が悠斗の空の皿を指差しながら、ニコニコ問いかけていた。

思考の波に攫われている中でも、どうやら手は止まらなかったようだ。

――確かに、皿の上には何も残っていない。


「美味しかったでござろ?まだまだたくさんあるから食べるでござるよ!!」


「っ⋯」


なんと、無邪気な目で見てくることか⋯


(そんな目で、俺を見るな⋯)


疑いも、打算もない、真っ直ぐな眼差し。

目を逸らしたくても、逸らせなかった。


「⋯⋯⋯あぁ、す、少しな」


喉に異物感を感じながらも、なんとか返答する。

 

「お!黒崎殿、やるでござるな。さぁさぁ!拙者自らが、ついでくるでござるよ」


琉宇が椅子を引いて立ち上がると、悠斗の皿を片手にキッチンへ向かった。


「⋯⋯うるさ」


「うふふ、琉宇がごめんね〜?無理して食べなくていいからね」


「あ、いえ⋯無理なんて⋯」


ママの優しい声に、目を伏せる。


「あの子、ちょっと強引なところあるでしょ〜?調子に乗っちゃうから嫌なことは嫌って言ってもいいからね〜?」


「そんな⋯いや、だなんて⋯」


――あれ?俺、親に⋯嫌だなんて言ったこと⋯あったっけか⋯?


思い出そうとしても、出てこない。

記憶の中の俺は――いつも黙っていた。


『ごめんね。お母さん今日も仕事遅くなるの。お金、置いとくからなんでも好きなの買って食べて』


『⋯⋯⋯⋯わかった』


母はいつも、夜遅くまで働いていた。

父の給料だけでは、やっていけないからだ⋯

だから、嫌と言っても意味が無いと思ってた。


(――でも、あの時、嫌だと言えばなにか変わったのかな)


そんなの、今更考えたってしょうがない。

わかってる⋯そうやって考えないとやっていけなかった⋯


(よく、覚えてる。あの夜のことも――)


『悠斗、ごめん。父さん、仕事で明日の休みの遊園地行けなくなったんだ』


『あなた!悠斗がどれだけ楽しみにしてたのか知ってるでしょ!!』


『ごめん⋯上司から頼まれて⋯』


『またそんな⋯⋯』


『いいよ!別に!俺、行かなくても平気だし!』


ギスギスした空気を無くすため、大声でそう叫んだ。


(本当は平気じゃなかった、ただ単に我慢した方が得だと思ったからだ)


俺が事を荒立てなければ、全て丸く収まる。

俺が我慢すれば、全て上手くいく。

だから、''いい子''でいた。


(嗚呼、そうだあの日もそうだった――)


『また、休日出勤!?これで何回目なのよ!』

『⋯ごめん』

『またそれ?それさえ言ってればいいと思ってると思ってんの?』

『⋯そういうわけじゃ』

『そうでしょ! 毎日毎日、そればっかり!』


(また、喧嘩してる)


俺が''いい子''であることに安心してるからなのか、大きくなるにつれ、二人だけの喧嘩が多くなった。

深夜、気づくと喧嘩し、二人とも朝早く家を出て、夜遅くに帰ってくる。

そして俺は家に一人でいる。


――なんだ


(こんなの、家族と言うなの''なにか''じゃねぇか)

 

「黒崎殿〜!!カレーのおかわりでござるよ〜!!」


琉宇は、ドンッと悠斗の目の前に皿を置く。

「少し」とはなんだったのか、山盛りのカレーがのせられている。


「琉宇ちゃん、多いんじゃないの?」


「え〜!黒崎殿ならいけるでござるよ!」


「も〜すぐ調子に乗るんだから〜⋯ごめんね、悠斗くん。無理なら残していいのよ」


やわらかな笑顔でママは言う。


「いえ⋯大丈、夫で、す」


鼻の奥がツンとする。

目の奥が熱くなり、視界が歪む。


(ヤバい⋯⋯)


それを誤魔化すように、カレーをかきこんだ。

スプーンの先にあるのは、あたたかくて優しい味。

――なのに、喉を通る度に、涙がせり上がってくる。


「黒崎殿?⋯⋯うん、美味しいでござるよな。わかるでござるよ」


いつも通りのテンションで、だけど、とても優しい声色でそう言った。


「あぁ⋯心底腹立つくらい」


スプーンを置いて、ほんの少しだけうつむいた。

隠したつもりの声の震えは、自分でもわかる。


「ふふ!拙者わかってきたでござるよ。それは褒めているでござるな」


ふざけるような口調のくせに、声には優しさがにじんでいた。


「⋯⋯うるせーよ、バカ、ヤロー」


スプーンを握る手が震えてるのを、誤魔化すように、またカレーをかきこむ。


「もー黒崎殿!そんなにかきこんだら喉につまるでござるよー!⋯⋯ゆっくり食べていいでござるからな?」


その言葉は、冗談のように軽い口調なのに――

泣いてもいいよ?と背中を後押ししているようだった。

 

「わかって、るよ⋯」


しばらく何も言わずにかきこんだ。

いつも食べている量より多いはずなのに不思議とお腹に入っていった。


「⋯⋯ごちそうさま、でした」


「まぁ〜全部食べてくれたの〜?ありがと〜」


おっとりした口調で、ママはニコニコ笑った。


「やるな、ゆうと」


そう言い、芽衣は小さく親指を立てて、ちょっとだけ得意げに笑った。


「⋯⋯ふん、お前に言われても嬉しくねーよ」


「もーそんなこと言って黒崎殿ったら!照れてるくせに〜」


「⋯⋯照れてねーよ」


そう言いながらも、耳の先がほんのり赤くなっているのが、自分でもわかった。


「にぃに、きょうのカレーね、わたしもてつだったの」


「み、美那も⋯」


「えぇ〜!!そうなの〜♡そりゃ美味しさ百万倍アップで、黒崎くんも美味しさで感激しちゃうよ〜♡」


琉宇が両手を広げて、誇らしげに言う。

妹たちも、褒められて嬉しそうに笑っている。


(っ⋯⋯)


――駄目だ⋯こんな場所にいたら

おかしくなってしまう


「きょ、今日は⋯ありがとうございました⋯」


なんとか言葉を絞り出し、立ち上がった。


「く、黒崎殿?どうしたでござるか?」


「⋯⋯俺、帰るわ。こんなに良くしてくれて、ありがとうございます」


パパとママに向かって頭を下げ、玄関へと足を向ける。


「えぇ〜?もっとゆっくりしてていいのよ〜?」


「いえ、もう帰るんで⋯」


そう言って、悠斗は靴を履いた。

玄関のドアを開け、ばたんと外へ出る。

リビングに一瞬、静寂が漂う。


「ぼ、ボク⋯行ってくる!!」


琉宇が椅子を蹴るようにして立ち上がった。


「えっ!?琉宇ー!!」


ママの呼び声にも止まらず、玄関に一直線に走る。

スリッパを蹴飛ばして、近くにあったサンダルを履いて、ドアを勢いよく開けて飛び出した。


琉宇はサンダルのまま塗装された道を駆けていく。

転びそうになりながらも、背中だけが見える悠斗を追いかけて、懸命に声を張る。


「黒崎殿!!!」


その声に、悠斗は止まる。


「⋯⋯⋯なんだよ」


悠斗は振り返らずにそう答える。


「どうして、急に帰るでござるか!なにかトラウマを引き出してしまったでござるか!」


悠斗はその言葉に、少し肩を揺らす。

笑ったのか、それとも――震えたのか。


「ちげーよ」


「じゃあなんで!」


「⋯⋯これは、俺の問題なんだよ」


「⋯⋯なに、それ⋯そんなの、そんなの一人で抱え込むなよ!!」


夜風にのって、悠斗の耳に届く。


「言ってくれないとわかんないよ!!ボク、馬鹿だからわかんないよ⋯そんなのずるいよ⋯」


「っ、俺だって⋯言いたいよ。でも言えねーんだよ」


掠れた声、嗚咽を抑える音が響く。


「⋯⋯黒崎くん?苦しいの?」


「⋯あぁ、そうかもな⋯苦しくて、泣けてきちまう」


琉宇は、そっと後ろから悠斗の背中に額を押し当てる。


「泣いてもいいんだよ。ボクが、ちゃんと受け止めてあげるから」


ただ、真っ直ぐで優しくて眩しい――そんな口調だった。


悠斗の肩が小さく、震える。

声を出しては泣くことはない。けれど、その震えが全てを物語っていた。


琉宇は、そっとその背中に腕をまわす。

ぎゅっと、優しく、包み込むように。


「今はただ泣いてていいよ⋯でも、いつか聞かせてね。黒崎くんの過去」


悠斗は何も言わない。

けれど、その手がそっと、琉宇の服の裾を掴んだ。

まるで子どもが「行かないで」と願っているように――


「黒崎くん⋯また明日来てよ。それでさ、ゲームやろ?今日言ってたクソゲーも⋯他にもいろんなのあるんだ!毎日でも飽きないくらい⋯だから、来てよ」


悠斗は少しうつむいたまま、裾を握る手に力が入る。


「⋯⋯なんだよ、それ⋯また行くのかよ。けど、いいよ。行ってやっても」


そう言いながらも、悠斗の声はどこか柔らかかった。

それを聞いた琉宇は顔を輝かせる。


「やったでござるー!!クソゲー耐久期間開始でござる!」


「おう、やってやるよ⋯てかお前、口調コロコロ変わりすぎだろ」


「うっ!ま、真面目モードであったでござるから!!」


「そういうことにしといてやるよ⋯」


むぅと膨れ顔の琉宇を見て、悠斗はニヤつく。


「⋯⋯あのさ」


「 ?」


「ありがとな⋯少し楽になった」


琉宇は一瞬だけポカンとした顔をするが、すぐに恥ずかしそうに笑う。


「え、えへへ⋯そんな照れるでござる」


「なに照れてんだよ、俺まで恥ずかしくなるだろ」


「だって、急に優しくなるでござるもん。拙者びっくり仰天でござるよ」


「はぁ?どこがだよ。俺なんかが優しかったらこの世の人間全員が優しいだろ」


そう言って、悠斗は小さく鼻で笑った。

琉宇は見つめながら思う。


(そういうところが⋯ずるいじゃん!)


誰かに優しくされると、否定して、茶化して

――でも優しくしてくれる


(だから、一緒にいたいんだよなぁ)


「⋯⋯もう、そういうところでござる!!」


「⋯⋯わっかんねー」


「自覚ないとかとんだ罪な男でござる!!」


「罪で結構⋯でも、お前も結構、罪な男だよ」


「え???」


「⋯⋯無自覚かよ」


他人のために、献身的に寄り添って抱きしめて肯定する――


(なんて、''罪な男''すぎんだろ)


軽くうつむき、ぽつりと呟いたその声に、意味を測りかねて首を傾げる琉宇。


「黒崎殿⋯どういうことでござるか?罪具合では、黒崎殿に軍配が上がると思うでござるよ?」


「あーそれで結構。一生その思考でいろ」


そう言って、悠斗は前を向く。

その横顔は相変わらず仏頂面だったが、ほんの少しだけ口元が緩んでいた。


「じゃあ、''また明日な''」


前を向いたまま、悠斗はそう告げる。


「 !?⋯はいでござる!また明日でござる!」


手をブンブンと勢いよく振り、悠斗が見えなくなるまでそれを続けていた。

――琉宇はしばらく、その場に立ち尽くしていた。


「ど、どうしよ⋯胸のドキドキが止まらない⋯な、なんでぇ?⋯も、もしかしてこれが、恋⋯⋯!?」


ほっぺたが熱く、思考がグルグルする。


(く、黒崎くんにこんな感情抱いちゃうなんてぇ⋯ボクのバカバカ!!⋯でも、好きになっちゃったんだもん!!)


ぽつりとこぼれた本音は、夜の風に溶けていった。

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クソゲー、時々、クソ映画、全てが愛おしい 楠木 @kusunoki2055

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