第15話「はじめまして」

 我が家は、わりと仲のいい家族だったように思う。

 父も母も優しかったし、たまには怒られもしたけど、それは俺が悪いことをしたからであって、理不尽な暴力等はなかった。というか殴られたことはない。


 うちは四人家族。父と母と、二つ上の姉と俺。姉はちょっと遠くに住んでいるが、たまに帰って来て顔を見せてくれる。明るい姉だ。結婚もしている。


 その家族の中から、母が今日、我が家にやって来ることになっている。俺はなんだか落ち着かなかった。その原因は――


「……そろそろお母様がいらっしゃる頃でしょうか」


 そう、美玲がいるからだ。俺一人であればこんなにそわそわすることもない。美玲と一緒に暮らしていることを知られて、この家を見られることが、なんだか恥ずかしかった。


 ……いや、恥ずかしがっていてもしょうがない。美玲のことは母に伝えてある。変なことを言われないといいのだが。


「ああ、そろそろだと思うけど――」


 ピンポーン。


 タイミングよく、インターホンが鳴った。モニターを見ると母が映っていたため、「入ってきていいよ」と伝えた。すぐに母が我が家に入ってきた。


「あらあら、奏多久しぶりね。忙しくしているのかしら」

「ああ、ちょっと仕事が忙しくて、帰る余裕がなかった」

「そう、仕事もほどほどにね。あ、もしかしてそちらの方が……」

「はじめまして、高野、美玲と申します」


 美玲はそう言って、ぺこりとお辞儀をした。礼儀正しい美玲でよかったと、ちょっとほっとした。


「あらあら~、はじめまして、奏多の母です。一緒に暮らしてるそうね」

「は、はい……私がお願いして、ここに住まわせてもらうことになりまして」

「そうなのね~、もー奏多ったら、早く言いなさいよ~、可愛い彼女ができたって」

「い、いや、まぁ……」


 美玲との出会いは話すとこじれそうな気がしたので、なかなか言いづらかった。


「奏多さんは、私を助けてくれました。とても感謝しています」

「あら~、そうなのね、奏多も優しいところあるじゃない。可愛い彼女を大事にしないとね」

「あ、ま、まぁ……」

「美玲さん、でしたわね、おいくつなのかしら?」

「私は、21歳です。奏多さんとは少し離れています」

「あら~、若いっていいわね。それにしても奏多、どうやってこんな可愛い子をゲットしたのよ~、奏多はお付き合いしている人もほとんどいなかったから、心配していたんだけど、美玲さんがいるなら大丈夫そうね」

「あ、そ、そうかな……」


 なんだろう、この場にいることがすごく恥ずかしい……思春期の男の子のような返事になってしまう俺だった。いやいや、恥ずかしがっている場合じゃない。しっかりしないと。


「美玲には、俺が仕事に行っている間に、家のことをやってもらっていて」

「そうなのね、美玲さんは家事ができる人なのね」

「あ、はい、一人暮らしもしていましたので、家事は得意です」

「あら~、若いのに偉いわねぇ。しっかりしていて、可愛くて、家事もできて、完璧すぎるじゃないの~」


 いつもより母のテンションが高い気がした。美玲は……いつも通りかな。時折笑顔も見せる。ほっとした俺がいた。


「あ、すみません、お母様に来ていただいたのにお茶も出さなくて。ちょっとお待ちください」

「あら、いいのよ美玲さん、気を遣わないでね」

「ありがとう、ございます。でもお菓子もあるので、用意してきますね」


 そう言って美玲がキッチンの方へ行った。リビングには俺と母の二人となる。


「……いい子ね、美玲さん」


 母がポツリと俺に言った。


「そ、そうだな、若いけど、しっかりしているというか」

「そうね、なかなかいないわよそんな子。奏多にいい人ができて、お母さん嬉しいわぁ~」

「そ、そっか、まぁ……」

「お待たせしました。どうぞ」


 美玲がお茶とお菓子を持ってきてくれた。


「あら~ありがとう。美玲さんのお父さんとお母さんはどこに住んでいるのかしら?」

「……あ、両親は、いません。父は小さい頃に出て行ってしまって、母は亡くなってしまって……」

「……あら、そうなのね……ごめんなさいね美玲さん、余計なこと訊いてしまって」

「いえ、大丈夫です」

「美玲さんも苦労してたのね……ご兄弟はいないのかしら?」

「はい、私は一人っ子です」

「そう、じゃあ今は本当に一人なのね……奏多、美玲さんをしっかり支えてあげるのよ」

「あ、ま、まぁ……」


 やっぱり思春期の男の子のような返事になってしまう俺だった。


「美玲さん、奏多をよろしくお願いしますね。この子、仕事を頑張るのはいいけど、何事も頑張りすぎるところがあるので、美玲さんも見てあげてくれると嬉しいわ」

「はい、私こそ、今後もよろしくお願いします」


 そう言ってまたぺこりとお辞儀をする美玲だった。


「いえいえ~、ああ、これはお父さんと京香きょうかにも教えてあげないといけないわね~、奏多にいい人ができたって」

「い、いや、ほどほどで頼む……」


 京香というのは、俺の姉だ。物静かな父はいいとして、明るくてうるさい姉にこのことが知られたら……いや、そんなことを言うと怒られるので気をつけておかねば。


「……あ、お母様、奏多さんは小さい頃、どんなお子様だったのでしょうか?」

「ああ、奏多はね~……」


 そんな感じで、わいわいと盛り上がる母と美玲。俺はどこかに逃げ出したくなった。

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見た目は子ども、でも大人、そんな彼女と出会いました。 りおん @rion96194

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