第3章「嘘つき」(第一話)

ロバートが自宅へたどり着いたのは、

すでに日が天高く昇った午前9時ごろであった。


「おかえりなさい。残業?」


彼がドアノブに手を伸ばすよりも先に、そんな声と共に玄関の扉が開いた。


「ああ、まあ上司に色々やるよう言われてね。断れなかったんだ… 悪く思わないでくれよ、リサ」


ロバートは軽く返事をしながら、コートを脱ぎ、ハンガーにかける。


リサと呼ばれたキツネ族の女性が、ドアの後ろからヒョコッと現れた。顔にはにっこりと笑顔を浮かび、耳と尻尾はピンと立つ、どうやらお怒りの様子だ。


「本当に残業?」


「ああ、もちろん。それ以外あり得あるか? 残業は残業だ」


「…遊んでたんじゃなくて??」


リサは再び怪訝そうな目で、ロバートの顔をじっくりと覗きこむ。


「遊ぶだって? はは。誰とさ?」


その言葉に反応するように、彼女の全身がブルりと震えたかと思うと、怒ったように走ってソファに飛び込んだ。


「自分からシッポ出すなんて… もう信じらんない!!」


「な、急にどうしたんだよ… 」


リサはキッとロバートを鋭く睨みつけた。


「何よ! なんでアンタが被害者ヅラできんのよっ!!」


落ち着くように彼女に言い聞かせて、遅れてロバートもソファへと腰掛ける。


「リサ… な? 俺が君に一度でも嘘をついたことがあるか?」


「……ない…」


と言いつつも、相変わらずそっぽを向いたまま動かない。


「なぁ? そうだろ? だからそう怒るなって」


そう言うと彼はソファの背もたれへと勢いよく背中を預け、ソファの上で尻尾を丸めて拗ねてしまったリサを心配そうに見つめる。


「別に… 怒ってなんかないもん」


「ふぅ、そりゃよかったよ」


リサは相変わらずこちらを向いてくれないが、しばらく尻尾だけが静かに素直に左右に触れていた。

しかし、急に尻尾はピンと立った。


「ねえロバート、一つ聞いて良い?」


「一体何をだい?」


リサはようやく起き上がったかと思うと、すぐさまロバートの服の匂いをスンスンと嗅ぎだした。


「…もしかして、汗臭かったか?」


「ううん、全然」


「そうか、なら良かった」


だが彼女は首を横に振り、さらにスンスンと念入りにロバートの服の香りを確かめる。


「ーーでもこの匂いって、香水の匂いよねぇ… そう、女物のうんと甘ーいやつの…… ね? 何してたのロバート??」

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