オフホワイト、人生

白川津 中々

◾️

 年に一度、本当に一人になりたい時が来る。

 予兆は人関わりが多くなる時期。元来付き合いが苦手だから堪える。そこで、落ち着いたら決まって妻に「旅に行く」と伝えどこかへふらっと一泊するのだ。


「不倫してるんじゃないの」


 そんな小言を背に受け出立。

 ちなみに旅と行っても精々一時間圏内。金と時間には限りがある。できる範囲の小旅行でコストを抑えるのが肝。でないと後で色々しんどくなる。今回は隣駅のビジホを確保した(今月はここが限界だった)。値段の割に部屋周りは悪くなく、狭いながらにしっかりとしたレイアウトだし、清掃も行き届いている。なんだか嬉しくなり、シャワーを浴びて少し寝ると三時間が経過。時間が早い。気を取り直して着替え直し外へ出て商店街をぶらつく。何もない。よく分からない店の入り口にセンスなく耐久性もなさそうな女性物の服が吊り下げてあったり粗雑で汚い個人経営の飲食があったり、The場末という感想。観光客は来ないだろうし地元だって週末は電車で街中へ出ていくだろう。現に商店街は活気など皆無でありジジババしか歩いていないのである。どこもかしこも色褪せていて、どいつもこいつも不景気な面をしているのだ。


「これこれ。これだよ」


 嬉しくなり呟く。こういう時が止まったような街並みがいいのだ。普段、加速度的に進んでいく現代社会を生きていると息切れしてしまうから、昭和から先がないような古き悪し街並みに癒される。悪い意味で何もないこの区画。生活するだけの施設だけ建てられている延命地区が、錆びた心に程よく染みる。素晴らしい。飲みたいと思った。もちろんこんな気の利かなそうな地元の店々ではない。どこにでもあるチェーン店でである。そしておあつらえ向きに全国展開している浜焼き屋を発見。二十四時間やっているありがたい店だ。ここで一杯やっつけて、ビジホでスーパーの惣菜をつつきながらくだらないテレビを観る。そんな段取りを決めて暖簾をくぐると俄かに楽しくなってきた。仕事も家族も忘れられ、ただそこにいて、何も気にせず酒を飲める時間。肩の荷がおり、人生の色がグレーからオフホワイトに変わった。こんなものでいいのだ、こんなもので。

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