第2話 俺、女の子になる
「ど、どういうことですか!? お、女の子って……」
「見たまんまよ? あなたには美少女Vtuberとしてダンジョン配信をしてもらいたいの」
言っている意味が分からなかった。
女の子として……配信!?
「いやいやいや、うまくいくわけないじゃないですか! 絶対にバレますって!」
「大丈夫よ、我が社が全力でバックアップするから」
なんかもう、この人が本気なのかどうかすらわからなくなってきた。
「あれ、そういえば、ダンジョン探索って政府機関への登録制ですよね? 確か3Dアバターは本人の性別が合っていないと登録できないんじゃ……」
「凄いじゃない、よく知ってるわね」
「じゃあ結局駄目じゃないですか」
「そうとも限らないわよ?」
かおる子は臆面もなくそう言った。
過去、ダンジョン内に凶悪犯が逃げ込んだことがあり、それ以来、身元保証とアバターの一致は絶対条件だ。
違反したら即、刑務所行きの重罪となる。
「いや、ダンジョン法にそう記載があったはずですよ。それに事前登録した信号が検知されないとダンジョンには入れないはずですが……」
「我が社の技術力を舐めないことね」
かおる子がなぜかふんぞり返った。
「このマーカー、『
「はああ? それってもしかして……違法アバター?」
こちらへ向き直ったかおる子がニヤリと笑った。
「だだだ、ダメですって! もう組織的犯罪じゃないですか!」
「そうね、だから絶対にバレてはダメよ? 手が後ろに回るだけじゃ済まなくなるんだから」
笑顔で怖いことを言う。
かおる子は続けて言った。
「ユーマイト、あなたゲームの中で、あれだけ『渋ダン』について熱く語ってたじゃない。それだけダンジョンに執着があるんじゃないの?」
「それは……」
「我が社も一旗揚げるなら多少のリスクは背負う必要があるの。あなたは念願の『渋ダン』に入れるワケだし、我が社はこの配信事業で一気に知名度をアップさせる寸法よ。どう? 利害が一致していると思わない?」
そう言われてしまうと確かに断る理由が見当たらない。
バレなければみんなハッピーだ。
「本当に……バレない自信があるんですよね?」
「ええ、そこは信用してもらって構わないわ。会社ぐるみであなたを守るつもりよ」
俺は俯いていた顔を上げると、モニターに映った少女も不安そうな表情をしてこちらを見た。
これから長い時間、大きな秘密を共有することになる俺の分身。
そう考えると彼女のことを少し愛おしく感じる。
俺が笑顔になると、モニターの彼女も愛くるしい笑顔を見せた。
「わかりました、やれるだけのことはやります」
「そう来なくっちゃ! みんなで幸せになりましょう!」
そう言ってかおる子が俺に抱きついてきた。
モニターの中の彼女も、かおる子に抱きつかれて愛想笑いを浮かべている。
「あ、そういえば、声はどうするんです? こんな男声じゃすぐバレますけど」
「ふっふっふ、そこは我が社の秘密兵器の登場ね。これよ!」
そう言って小型ジュラルミンケースの中から小さな丸い絆創膏のようなものを取り出した。
「AI変声デバイスよ。医療技術からの応用なんだけど……のどぼとけの上に貼ると、喉の震動を調整して他の音声に変換できるの」
「え、そんなすごい技術も持ってるんですか」
「本当は蝶ネクタイ形の変声機にしたかったんだけどね」
かおる子は楽しそうに言った。
「この後、あなたの声を声紋分析したいから、ちょっと協力してね。この子に相応しい可愛い声にしてあげる」
「わ、わかりました」
撮影スタジオに隣接している録音ブースで、およそ1時間ほど、マイクの前でどうでもいい文章をひたすら読まされた。
明るい声、暗い声、怒った声や泣いた声などをすべて録音し、AIを使用して俺の癖や声域、声質等を分析するらしい。
結果、俺の声とは似ても似つかない可愛らしい声が完成した。
「え、これが俺の声……めっちゃ可愛いんですけど……」
「でしょ? ベースは私の妹の声なんだけど、あなたとの相性は抜群に良かったみたいね」
かおる子は満足そうに頷いた。
早速モニターの前で3Dアバターを見ながら喋ってみる。
「えーと、こんにちは、よろしくお願いしまーす」
「甘い! 全然女の子っぽくない! やり直し!」
即座にかおる子からダメ出しが入った。
急に言われてもな……女の子っぽい喋り方か……。
「ううん、えーと、こんにちは~! 新人Vtuberの……」
そこで俺は言い淀んだ。
「そういえば、この子のキャラ名って決まってるんですか?」
「ええ、もちろん……名前は『天乃瀬ルミナ』よ」
「へぇ、なんか、ぽいですね」
『天乃瀬ルミナ』……結構いいかもしれない。
俺は名前からくるインスピレーションで少し演技に感情を載せた。
「こんにちは!☆ 新人Vtuberの天乃瀬ルミナでぇす!」
「まだ照れがあるわ! もっと自然に!」
最後の『でぇす』で声が裏返ってしまった。
かおる子は顎に手を当てて何やら考え込んでいる。
「ねぇ、あなた好きなVtuberとかいないの? 誰かの物まねから入ったらどうかしら」
「好きなVtuber……ですか」
正直、Vtuberはゲームの次に好きで、企業勢から個人勢まであらゆる配信者は把握している。
「あと、何か特徴的なあいさつとか口癖があったほうが親しみが沸くわね。ちょっと考えてもらえる?」
なかなかの無理難題を出してくるかおる子。
俺はチャンネル登録者数700万人のVtuber界のトップ、『花影セレスティア』を思い浮かべた。
自称18歳の彼女は、まるでアニメを見ているかのような自然な演技と子供っぽい喋り方で大人気のVtuberだ。
「彼女の演技の方向性……このキャラに合うかもしれない」
これまではどこかに照れがあったため、演技の不自然さが際立っていたんだろう。
俺は深く息を吐くと、恥を捨て、女の子になり切る覚悟を決めた。
少し前のめりになり、モニターの中の少女が最も可愛く見えるポーズを取る。
「こんルミ〜☆ みんなの心にきらめく月光、ルミナだよっ!☆」
「そ、それよ! それで行きましょう!」
ガタっと椅子から立ち上がったかおる子が、興奮した様子でこちらを見た。
次の更新予定
正体バレたら人生終了!? 陰キャのゲームオタクが「バ美肉VTuber」になってダンジョン配信を始めたら世界中のアイドルになった件 はむかつ @crew4096
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